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-CONCEPT- OLD記事

 篠原有司男の底力 3

美術手帳 1995年10月号 掲載

ホッバーのアメリカ

 そういうときにエドワード・ホッパーが思い出されるんですか。


篠原 …… エドワード・ホッパーというアメリカの都会派の画家がいることは、アメリカに来てはじめて気がついたんだけど、日本にいるときはぜんぜん気がつかなかった。 どうしてかというと、絵が地味で、写実的で、下手くそで、日本の公募展にも入選しないようなもので、しかも、一生同じ、ペンキを塗った、絵にならないようなアメリカの風景を措いているわけ。 オフィスとか、田舎のガソリンスタンドとか、部屋の中とか、女房の読書姿とか、一軒家とか、ストリートとか。

 それを見てると、センチメンタルな悲しさとか孤独とか哀愁のなかに、ひじょうにドライなものというか、しょうがない、これしかないというかね、甘くないよと。 逃げるところもなくて寒風のなか、アメリカの道路に立ってる、ほんとの乞食みたいな気持ちになるのよ。 行くところもなければ、親もねえ、子もねえ、助けてくれる人もないしね。 ああ、一杯のコーヒーでもいいから、あったかいものを飲みてえなっていう気持ちになるわけ。 それで、コーヒー屋で一杯のコーヒーを飲むと、人間の精神のバランスが戻ってくるんだね。

 だから、ホッパーの有名な 「ナイトフォーク」 があるんだけど、じつにうれしいね。 お互いにぜんぜんコミュニケーションのないやつが、コーヒー屋で、ぼつん、ぼつんとコーヒーを飲んでいるわけ。 アメリカって、まさにあれだね。 じゃどうしてお互いが結ばれるかっていうと、よ-く話し合ったりね、気持ちが合うとか、はんとうに信用し
きったときに友だちができるわけだけど、.じつに少ないね。 ぼくは二十五年間アメリカにいるんだけど、うちにきて冷蔵庫を開けて勝手に食っていいという友だちは、五人しかいないね。 そのかわり、親友の五人というのはほんとうにすばらしい友だちだよね。

エドワード・ホッパー版画家展

 

ジャパンハウス

 鳴かず飛ばずの十三年間。 チャンスが突然来た。 ジャパンハウスギャラリーディレクター、ランド・カステリー氏と学芸員のアレキサンドラ・モンローさんは、八ーワード通り二十五番地のロフトにぎっしりと並んだ作品群に強烈な印象を受け、大予算で 「シノ八ラ・ウシオ」展 を開くことを決めた。 ニューヨークタイムス紙は 

「シノ八ラは頭からアメリカのカルチュアに激突している。 とくに 「FIower Viewing (花見)」  と題する大作はレディ紫 (紫式部)、源氏物語、ドラゴンから桜、それらに混じって、ニューヨークのイエローキャブや有名なアメリカ作家エドワード・ホッパーの作品の中のガスステーションなどが、シネマスコープ的スケールの大絵画のなかで混ざり合い、十分なドゥローイングの技術の上に、驚くほどコントロールされ描き上げられている」 

と絶賛した。

ジャパンハウスでの展覧会のカタログ

シノ八ラは頭からアメリカのカルチュアに激突している。

とアート欄トップ見出しで掲載された New York Times誌 の写真。

1982年10月1日掲載  

女の祭  (New York Times 誌に掲載されている写真の作品)

 

Doll Festival

1966年

193 × 390(130×3) cm

兵庫県立近代美術館-山村コレクション


 そうこうしている、うちに、ジャパンハウスで展覧会をやられるわけですね。これは八二年ですか。


篠原 …… そう。 九月にやったんだけど、この頃はアメリカが日本にそろそろ関心をもつようになったころで 『アートニュース』 の表紙にぼくがなったり、 『ニューヨーク』 という雑誌に家族で出たり、マスコミとかアメリカの表面に一気に躍り出てきた時代で、それからはすごく楽しかったね。
 それでジャパンハウスで出した 「花見」 という作品を、買うというやつが出てきたわけ。 これはものすごくでかい、ヴェニヤ板六枚続きの超大作なんだけど、マルポロというタバコ会社の重役の奥さんが 「これを買いたい」 というわけ。 信じられない話なんだけど、あなたの 「花見」 の絵のために大広間を日本風に改装するから、一年間待ってくれというわけ。 ソファーベッドとかを全部捨てちゃって、タンスとか家具も古いのを入れたりして、それでぼくの作品を置いたわけよ。 七万五千ドルで売ったんだけど、そのころの七万五千ドルといったら、すごい大金だよ。 そのときにその人が、 「花見」 の細かいところはぜんぜんわからないから細部を説明したものをスケッチブックに書いてコピーをたくさんとってもってきてくれというから、百枚ぐらいもっていったら、お客さんにそれを見せるわけ。 自分では、どこに鮫がいるんだか、お姫様がいるんだか、なにがいるんだかわからないというわけ。

*1982年10月の為替レートは$1=271円 「花見」 の販売価格は 20,325,000円。

拡大写真はここをクリックしてください

花見

1982

  120 × 660

アクリル・キャンバス

個人蔵

 


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