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-CONCEPT- OLD記事

 

兔と蛙の乗ったケンタウルス彫刻 鉄 6.6×3.7×6.7m 26トン

最後の仕上げ 鋳物同士の溶接

 鋳物の鋳込み過程に一カ月かかるため、四十日間飲み続け、食べ続けた焼き鳥、豚足、豚骨ラーメンに名残りを惜しみ、有司男と女房はいったんニューヨークに帰った。  北九州の溶鉱炉が爆発してるんじゃあないかと憂い、冷や汗をかきながら有司男は、ニューヨークで眠れぬ夜を過ごした。  夜、眠れなかったのは、時差のせいもあったのだが。
 そのころ、北九州の八幡ハイキャストでは、砂の中に埋められた発泡スチロールのケンタクロスに千五百度の熱で溶かした鉄が注ぎ込まれていた。  茶碗一杯ぐらいではなく、ドラム缶にして何杯もの量である。  鉄を湯水のごとく使うのである。  火山の溶岩が流れるかのごとく火花を散らし溶けた鉄が流れる。  一瞬のうちにその熱で発泡スチロールのケンタウロスが燃え、暗黒の煙が噴き出す。  「火事だ!」 と消防車がサイレンを鳴らして何台もやって来ないように、消防署にはあらかじめ届けまで出してある。  発泡スチロールが燃えてできた空間に鉄が流れ込んで、鉄のケンタウロスに変わる。  白い発泡スチロールが鉄に代わるのだからアラビアの錬金術師も驚いたことだろう。  兎も蛙もそうやってできた。
 鋳物完成の連絡で有司男と女房は再び北九州に戻って来た。  今回は落ちついたもの。  なんと言っても作品はほとんど出来上がっているのだから。  おまけに、このイベントを 「彫刻シンポジウム」 とうたった手前、美術舘でのシンポジウムもある。  相手がフランク・ステラだから豪勢なものである。  観客もたくさん来るに違いない (母里君もシンポジウムのメンバーである)。  おしゃべり好きな有司男、太平洋を通過する飛行機の中でも、シンポジウムで何をしゃべろうかなあと考えているとつい嬉しくて、スチュワーデスにも笑顔を振り撒いてしまう。
 一カ月ぶりの北九州に着き、一カ月ぶりの小嶋氏のホテルでは、前回四十日間滞在したときの懐かしい四一二号室が待っていた。  前回は飲み過ぎであったと古女房が怒るので、焼酎を横目で眺めながら、地鶏のレバー、新鮮なる馬刺し (粋なおばさんが調理してくれる 「彦しゃん」 でこれを食べると、食べる前から元気が出る) で旅の疲れを癒やした有司男は、山九本社に向かった。
 九州は、暖冬続きの日本のなかでも南国。  そろそろ冬だといっても、なかには泳いでいる人もいるだろうと、有司男は鞄の中に海水パンツを入れてきた。  よもや北九州は日本海岸にあり、日本海型気候であるとは知らなかった。  玄界灘の寒風吹き荒ぶ、山九の開けっ広げどころか最初からドアの付いていない、前回のメカトロ・センターよりも大きい工場では、ケンタウロス・モーターサイクルは黒く銀色の光を発して有司男を待っていた。  目尻のしわは深く、アイスクリーム・コーンを突き刺したかのごとくに飛び出た目からもう一度突き出た眼玉。  口元には不気味な微笑み。  白く柔らかい発泡スチロールが、硬い鉄に生まれ代わったのだ。
 一カ月の心配が喜びに代わった有司男は、自信満々でシンポジウムにも出席。
 本当は一人でしゃべりまくりたいところをぐっと我慢して、真面目なステラ氏や素朴な母里君の言葉にも耳を傾ける。
 山九の工場では、最後の仕上げが続いた。  発泡スチロールのケンタウロスや兎や蛙を分解して、中をくり貫いてから鋳込んだ鋳物同士を、もう一度接合しなくてはいけない。  鋳物同士の溶接の場合、特殊溶接の技術が必要。  それに加えて有司男の作品の形が特殊。  またもあちこちでお断わりを受けた。  最後に引き受けたのがフジコーという溶接会社である。

 




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