• N
  • TCg^c
  • vCoV[|V[
  • [
-CONCEPT- OLD記事

兔と蛙の乗ったケンタウルス彫刻 

鉄 6.6×3.7×6.7m 26トン

発泡スチロールの原型


 二週間が瞬く間に過ぎ、モーターサイクルの形がほぼ出来上がってきた。  高さ四・五㍍、長さ六・六㍍の鉄モーターサイクルは、戦艦大和か、あるいはトロイの木馬。  要塞、軍事基地、あるいはNASAに設置するにふさわしい、鉄の怪獣に育っていた。
 だが、これからが有司男の近年の発明、 ケンタウロス・モーターサイクル となるのだ。  ギリシア神話に出てくるケンタウロスは上半身が人体で下半身は馬、そして略奪した美女を抱えている。有司男の作品の場合、上半身は人体だが、下半身はモーターサイクルである。  ここで美女略奪が問題となった。  作品完成の暁には地元の高炉台公園に設置と、最初から決まっていた。   小学生の間に美女略奪ごっこが流行っては大変。  有司男は 「これがフランスならばお金玉が四つ付いていたって、シャンゼリゼのど真ん中に設置が許されるのに」 と涙を飲んで美女を兎と蛙に置き換えることにした。
 ケンタウロスのお尻まではなんとか職人さんたちが、有司男の造った段ボールの型紙を元にして鉄を切り抜いたり、叩いたり、ひねったり、溶接の技術を駆使して造り上げた。  だが、ケンタウロスの顔と胴体、腕、そして兎と蛙は不可能である。  写実性を尊ぶ有司男の作品、丸や四角、三角には置き換えられない。
 シンポジウムの最初から、手前の仕事は放ったらかして有司男に付きっきり、手先、足先となって助手を務めていたこのシンポジウムの発案者・母里君が活性化協議会と相談した。  鉄に関する知識と言えば中華鍋か小学校の鉄棒か程度の有司男と違って、母里君は鉄のお膝元で生まれて育った生粋の鉄の彫刻家。  鉄の専門家と鉄の街が組めば怖いものはない。
 発泡スチロールで原型を造り、それを砂型に埋め、鉄で鋳込むことになった。
 かくして、バックミラーの両方とも壊れっ放しの母里君のトラックに、早朝七時より揺られての新曾根工業団地通いが始まった。  トンネルを通り過ぎ、山を越え、ギネス・ブックに載る寸前すれすれに小さな北九州空港近辺、工場の密集する北九州工業団地と呼ばれるところに井上木型製作所はあった。
 ヘルメットに安全靴を強要され、一つ間違っても命がかかっている鉄工場がハード・ボイルドならば、ゴム草履を突っかけただけの木型製作所はソフト・ボイルド。  なにしろ発泡スチロールに頭をぶつけたって、痛くもかゆくもない。
 鉄の工場ならば即病院、そしてお寺ということになる。  むろん、結姫式ではない。
 木型を造る職人さんたちが半ミリの狂いも許されないデリケートな仕事をしている真ん真ん中で、有司男の仕事は始まった。  ベッドに敷くマットレスよりも大きい発泡スチロールを何枚も何枚も、特種糊で張り合わせ、チェーン・ソウを振り回し、切り刻み、切り過ぎたり、足りないところはまた糊でくっつけ、また切り刻み……。  発泡スチロールの粉を派手に撒き散らし、全身白い粉まみれ。 横からコンプレッサーを吹き付け、有司男の顔を覆った粉を吹き飛ばす母里君の近眼鏡も真っ白。  朝のNHKラジオ体操に合わせて清清しく体操をする職人さんたちの真ん中で、ケンタウロスは徐徐に形を整えていった。



Copyright (C) 1999-2010 New-York-Art.com All rights reserved.