マッピングシッティング

Mapping sitting on portrature and photography

グレイアートギャラリー

１／１１～４／２、２００５

Gray Art Gallery

New York Univeristy, 100 Washington Square East, NYC

Studio Soussi portrait index (Sidon, Lebanon)

100 pages, 19 3/4 x 13 3/4 x 3 3/4 in.

ベイルートのアーカイヴセンター、アラブイメージファンデーション（AIF：１９９６年創立)で収集されたアラブ社会の記録写真をもとに企画構成された展覧会。記録写真といっても蚤の市で発見された写真もある。地元の写真館や個人からの寄贈写真が多く、プライベートな使用の写真が中心。本展のタイトル、Mapping sittingは、”肖像の作図”と訳せばよいだろうか。会場におかれたリーフレットには、こう記されていた。「アラブ写真などという物があるのではない。」本展は、オリエンタリズムというレンズを通さないアラブ社会内側からとらえられた視点を提示する。

Walid Raad and Akram Zaatari, installation of i.d. photos from Studio Anouchian dating from 1935–70 (Tripoli, Lebanon), 2003

Photographer: Antranik Anouchian (1908–1991)

Installation at the House of World Cultures, Berlin, 2003

Walid Raad and Akram Zaatari, detail of installation of i.d. photos from Studio Anouchian dating from 1935–70 (Tripoli, Lebanon), 2003

Photographer: Antranik Anouchian (1908–1991)

Installation at the House of World Cultures, Berlin, 2003

会場入り口すぐに、３６００点の証明写真からなる壁一面のインスタレーションがある。ほとんどの身元が現在では不詳だというが、明るいトーンのドレスを着てカールした髪に大きなリボンの女性や、背広姿にポケットチーフの男性など、様々なスタイルの人々が目に入る。レバノンのある一つの写真館で１９３０年～７０年代の間に撮影されたごく普通の証明写真だ。

Walid Raad and Akram Zaatari, detail showing Cairo Police Academy, 1927, from video installation of military group portraits from Egypt and Iraq, 2002

DVD, 6-minute loop

Group portrait with Nurse Zainab Shalabi (second from the left, standing), mid-1920s (Tanta, Egypt)

Black-and-white photograph, 9 x 9 in.

Photographer: Badr

イラク、エジプトで撮影されたグループ写真では、ポリスアカデミーでの卒業写真や医療施設で働く医師や看護婦の写真が見られる。時代は１９２０年～４０年代、民族主義が高揚していく頃だが、専門的な職場で男性とともに働く女性や西洋的なスタイルの若いポリス達が印象的。

Walid Raad and Akram Zaatari, detail of Beach Series (Reclining) from Studio Shehrazade dating from 1949–55 (Sidon, Lebanon), 2003

Photographer: Hashem el Madani (born 1930)

レバノンで現在も現役の写真家（Hashem el Madani: 1928～ )

は、特定のレジャースポット（海岸やスキー場など）で友人知人、あるいは偶然出会う人々の写真を撮った。半ば自身の楽しみのために撮影したようで、プリントした後撮影した人々が気に入れば売っていたという。ほとんどが購入を希望したそうだが、写真がまだまだ高価だった頃、中には経済的な理由で断らざるを得ない人たちもいたとか。社会情勢が不安定になる１９４０年から５０年代の頃に撮影されているが、屋外の人々は皆開放的。

Walid Raad and Akram Zaatari, detail of video installation of photo surprise photographs from Photo Jack archive dating from 1950s (Tripoli, Lebanon), 2002

DVD, 45-second loop

本展の企画者は、ニューヨーク、ベイルートを拠点に活躍するメディアアーティスト、ヴァリド・ラードとAIFの設立者の一人でもあるアーティスト、アクラム・ザタリ。二人のAIFからのスナップ写真や集団写真を用いたビデオインスタレーションも興味深い。ニューヨークタイムズで本展を評したホランド・コッターは、こう評している。”記録写真は必ずしも真実を客観的に伝えるメディアではない。なぜなら写真は、その時代や社会、文化のフィルターを通しているから。しかし写真は、私たちの生活において最も具体的かつ詳細な視覚的証言ともなるもの。どの政治家達の言葉よりもアラブの人々の生の生活を伝えている（要約）。”　本展での何千点もの写真は、私たちの特定な社会への既成概念を問い直すきっかけを与えてくれる。（Yoko Yamazaki)