ゲルハルド・リヒター:ペインティング 2001−2005
Gerhard Richter: Paintings 2001-2005
11/17,2005− 1/14、2006
マリアン・グッドマンギャラリー
Marian Goodman Gallery
24 West 57th Street New York, NY 10019
モマでリヒターの回顧展が行なわれたのは4年前の2001年。以来久々のニューヨークでの発表となった本展では、ジリカート・ピクチャーズ・シリーズ(
Silikat pictures,
“885-1〜885-4”
2003)とアブストラクト・シリーズ(”892-1〜892-12”
2005)をメインに、ドローイング、ガラスを用いた抽象作品、風景をもとにしたブルーワード・ペインティング等が公開された。
ジリカート・シリーズは、4枚の290cm四方の巨大キャンバスからなる。科学雑誌からの分子構造を示す顕微鏡写真をモデルにしたもので、近年リヒターが興味を持ったモチーフだという。それは、次の様な問いを抱かせるからかもしれない:我々を取り囲むすべての環境や状況は結局物理的なもの、つまり原子や分子構造に集約されるようなものなのだろうか。さらにリヒターはこう自問する:イラストレーションとして存在していたイメージは、その文脈から離れた時、何を伝達し得るのか。分子像はリヒター特有のぼかしで描かれている。画面に近づけば近づくほど目眩を誘うジリカート・シリーズは、曖昧なようでいて、私たちの意識に無意識に存在する様々な
定義についての再検証を促すようだ。
アブストラクト・シリーズは、12枚の絵画(各197x132cm)からなる。グレーを基調にした、スキージーやブラシによる作品。グレーのレイヤー(層)の下からは様々な色彩が見え隠れし、光や何か或る事象を示唆するようで具象的な作品よりもどこかリアルに映る。かつて彼は、絵画における視覚的なイメージ、つまり見え方や映り方を創造することに関心があると語っている。同じ展示室の中に一点だけ写真作品、ムスタング飛行部隊(Mustangs,
2005)が展示されている。同名、同サイズのリヒターの1964年の油彩作品を撮影したもの。ムスタングはリヒターの故郷ドレスデンを空爆した連合飛行部隊の先導機。12のシリーズは具象・抽象を超えたイメージへの探求であることがうかがわれると共に、オクトーバー・シリーズ(October,
18, 1977 [1988])のように政治的なレクイエムを込めた作品のようにも思える。
本展に合わせ、新作を網羅したフルカラーのカタログ(ディーター・シュワルツ、ベンジャミン・H・B
ブックローによるテキスト、及びリヒターとブックローの対談[2004年11月]を収録)も出版されている。
(Yoko Yamazaki)