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-CONCEPT- OLD記事

オイラン【花魁】

 

Oiran

1981年

65 ×  76 cm

プラスティック ・ 木

 

 

講談 ニューヨークの次郎長・外伝12

狂人鬼吉    後偏


 ど素人からにわか絵描きになり上がりニューヨークのど真ん中の大前田栄丘郎画廊で、鬼吉一世一代の作品発表。 だが肝心の絵が一点もない。 どうする鬼吉。 石松の授けた知恵で晴舞台を乗り切れるか、術は師走。 懐の暖かいヤッピーたちがおくればせながらクリスマスプレゼントをわんさと買いあさっているここソーホーアート村、こちらも負けず派手派手オープニングパーティーをおっ始めようと、六時開場の画廊前はリムジンか
ら降りるタキシード、イブニングドレス姿がちらほら。 地元古株の日本人たちも、最近日本から乗り込んで来た威勢がいいだけが取り得の 英語もろくすっぽ喋れない自称芸術家が一体何をしでかし、このニューヨークで大恥をさらすか見届けてやろうと集まってはみたが、上等一流のアメリカ美術界の面々にびっくり。
 さすが大親分栄五郎のうしろだてなりとすみでヒソヒソ。 こりゃあ最近めったにお目にかかれない蒙華展になりそう。 故郷日本に錦を飾るため、アメリカでこんなにやりましたと、 ハクを付けるありきたりのとは一味違うぞ。
  さあ始まった。

  「やややあの野郎、絵を見ないで一直線にバーコーナーに突撃して行きやがる。 おおこっちは食物を早くもパク付き出してるぜ」

 上等のシャンパン、バーボンにツマミをどっさり揃えた片隅のバーコーナーは、五人の清水一家がバーテンダー。 汗水たらして必死に注文の酒を注ぎまくっているが、行列は一向に切れ間が来ない。
                                              
 「今日は皆さんやけに喉がお渇わきになっちょるんだなあ」

 「そりゃあそうだろう。 こんな絵見せられたんじゃあ、シラフじゃあとても付き合えねえよ」

 絵描きが何を描こうと、絵空ごとなら 赤旗だろうが七面鳥の丸焼だろうが知ったことかだが、時々現実以上なリアリティーを持ち我々に迫ることがあるからやっかい。 とくに石松のときたら自由奔放この上ない。 荒々しい筆づかいが石松の息づかいまで伝えるようで、見てる方も もやもや興奮。その上型破り常識破れ破天荒な主題にびっくり。 異常に迫真カのある写実カで攻めまくって来るからたまらない。 こうこうと強い照明を浴び、全域
一杯にくり広げられる歴史に残る殺りく戦闘シーンの数々。 中でも超大作真珠湾ミッドウエーを一緒くたに描いた日米大海戦図はへきえき。 ダークグリーンの海面からニョキニョキ出た恐怖のタイガーシャークの大群とナイフで争う沈没軍艦の水兵。 上空から爆弾魚雷が雨あられ、紅蓮の炎がそれらを包む。 見ていて疲れる絵とはこのこと。 すごいぞと期待して来た連中もこれにはぴっくり。

 「うへー これがアートなら、俺だったら最高裁の判事かローマ法王だ。 それとも死んだ方がましかもよ」

 プー と吹き出し、ドレスをひる返し隣から逃げ出して来た。

 「何だ何だ」

 次なる個展会場こそ鬼吉苦心の作、次郎長一家全員で拾い集めた古タイヤが百個近く山積みされ、穴が迷路になるように針金で結ばれ、まるで穴居人の棲家、洞窟のように不気味。 まあここまでなら、いわゆる抽象彫刻かオブジェアートでミュージアム・オプ・モダンアートの一室に席を与えられていても不思線ではない。 キョウビ子供でも、それがただのガラクタではなく正真正銘の彫刻と呼ばれる芸術作品で、たとえ路で拾われ元手は一銭もかかっていなくとも、美術館は購入値段ウン百万円を作者に渡しているはず。 現にタイヤ一個と折れた道路工事標識をカンバスにくっ付け、絵具をなすくっただけのロバート・ラウシエンバーグの作品は、六十年代ポップアートの代表作として常棟され、各国で美術教科書にのり、まあ一億出しても売ってはもらえないだろう。 こちら鬼吉のタイヤ彫刻。 穴ぼこの中に何やら生きものがうごめいているぞ。 グラス片手の連中も怖いもの見たさで近づいてのぞき込む。 頃は今だと、上方の穴から、口が耳まで裂けたオシロイ姿の凶女が、ガーオーと首を突き出したからたまらない。 腰を抜かさんばかりに驚きグラスを落として一目散、石松の会場に逃げ帰ってしまった。 酒の勢いも手伝って数分すると、又新しい一団が何んだ何んだとタイヤの山を囲みガヤついているところに、歌舞伎風狂女の首、ギヤーの喚声。 堅苦しいお芸術論は吹っとぴ、飲んで食って恐怖して悲鳴と笑いで一杯の大芸術展でした。      (終)

 

次回から 「ニューヨークの次郎長」 の連載を始めます。


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