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-CONCEPT- OLD記事

バミューダで制作する三木富雄組

Tomio Miki Group Working in Bermuda

 1987 

アクリル・キャンバス

徳島県立近代美術館

 

 

 

講談 ニューヨークの次郎長・外伝11

 

狂人鬼吉  中編

 

大前田栄五郎親分がソーホーに開いた大画廊での二人展を三日後に控え、大張り切りの石松とはうらはらにこちら鬼吉は青い顔。 お前の出番だと声掛けられたのはよいが、どひゃっときてしまい、一体どんなことをしでかしたら世間の皆様があっと驚き、手をたたいて喜んでくださるかさっぱり見当がつかない。 石松はとっくに次郎長の大ロフトで所狭しと大キャンバスをおっ立て、何やら恐ろしい画を描きまくっている。
 まず一番最初のが、シカゴの大親分アルカポネの数ある悪業の中でもとくに血生臭い聖バレンタインデーの殺りく。 ニューヨークでは毎年この日二月十四日の深夜テレビで、かならずこの話を克明に描いた映画を流すから、知らぬ者がない。 璧に並ばせた いち ダースのヤクザ者をニセ警官がマシンガンでバリバリ。 このシーンは石松が、大量の絵具でメッタヤタラに塗りまくってあるのでもう赤ばかり目立ち、激しくけばけばしいだけ。
 次がアップタウンホテルの床屋で髭をそってるうちに殺られた親分アナスタシヤの最期。 次、スラム街の大火。 次、恐怖の麻薬デーラーの復しゅう一家皆殺し。 次は御存知 南海のサメに噛まれ、どばっと血の吹き出る可愛娘ちゃん。 しかも今日は会場正面を飾る超大作を、石松ねじり鉢巻で汗水たらして挑戦中。


 「兄貴、一服しながらこの哀れな鬼吉の悩みを聞いておくんないよぉ」


 「何んだって、何にも出来てねえだって、馬鹿野郎。 あと三日かねえんだぞ。 何か作って並べなきゃあ、オープニングにこの時とばかり着飾っていらっしやるお客様に何んて言い訳するんだ。 大前田の面目まるつぶれ。 うちの親分だって黙っちゃあいめえ。 お前、指の二、三本じゃあ済まねえぜ」


 「おどかしっこなしだ兄貴。 絵筆など握ったことのねえ俺が、個展だオープニングだったって一体何のことやら。 この弟分によく解るよう説明してやっておくんないよ」


 と鬼吉涙を流している。
                  
 「あと三日、素人のお前が一夜漬けの油絵を並べても美術の世界はそう甘くねえ。 そこでだ、今日前衛ばやりの御時世、俺がいい知恵を授けてやる。 ちょつと耳を貸せ。 むにゃむにゃ……、 と言う訳よ。 解ったかこの唐変木。 俺なんか下手に美大で絵の常識をたたき込まれちまったが、自由の新天地ニューヨークじゃあかえって足手まとい。 もっとハチャメチャに暴れまくりてえが出来ねえ。 そこいくとお前は真白なキャンバスと同じ。 はなから自由で解放されちまってるんだ。 どんな奇抜なことしようと、吹き出されはしても文句言うやつはいねえよ!」


 「タキシードにイブニングドレスの美男美女が大勢、シャンパン キャビヤで上等な会話を英語でペチャクチャやるのでしょう」


 「大前田はアメリカでは名の通った大親分。 久七あたりと格が違う。 美術界の大物が集まるだろうな」


 「この鬼吉はショートパンツにゴムぞ-りの着たきり雀」


 「絵描きはそれで充分よ。 大統領だって文句言わねえ。 鬼が出ようが蛇が来ようが、このバーティーの主役は俺たち二人なんだ、元気出せ!」


 「でもよう、皆さんおらちの作品眺めながら酒飲むだけなのかい」


 「何にも知らねえな、この野郎。 俺は銀座時代に画廊バーティーは五十回以上。 あんな楽しいことはねえぜ。 この世に二つとあってたまるけえだ。 普段あまりお付き合いの無え方でも個展となりゃあ 一本さげ、花束抱えて来てくださる。 特に次郎長一家は貧乏で有名。 普段ろくなもの食ってねえに違えねえと、この時とばかりうまいもん ごってりこさえて差し入れしてくださる。 一ケ月の会期中はおつまみの山 酒びんの林だ。 会う人ごと ″おめでとう、よくやりましたってあいさつ。

 ″さしょうですが″ 

と金一封入った御祝儀袋をおらちのポケットにねじ込んでいくかたが五人や十人じゃあねえぜ。 それをそっとトイレで開け 金勘定。 ウヒヒヒヒ、もう一生に何度も結婚式やってるみてえな気持ちになってくるぜ!」

 「へえ-、信じられねえなあ」


 「可愛娘ちゃんだって日頃俺っちを何言ってんだか解らねえ、不潔な稼ぎの無え うじ虫ぐらいにしか見てなかったのが、こんなでっけ-花のソーホーど真中の新品真さら画廊でお作品を並べ、招待状も何ん千枚と刷って配っある会場しゃあ、先生先生だ。 びっくりして 

″ヘー、さすが石松さん見直す-″。

普段は不潔な乱暴者でもやる時はやる男だったのねぇー と、とろーんとした目で、

″ああ私、石松さんのお嫁さんになりたいわ ”

なんて、画廊の隅で小声で泣き付かれて見ろ、もう男みょうりに尽きるってもんよ」


 「夢見てるんじゃあねろうなあ、 兄貴。 しっかりしてくれよ」


 「ここは花のニューヨーク。 世界アートの中心だぜ。 泣く子も獣黙る鬼の美術評論家が じっと大型新人のデビューするのを見張ってなさる。 そお眼鏡にかなって見ろ。 一夜明ければパーツと目の前が開け、お作品を売ってくださいと電話は鳴りっぱなし。 あちこちの美術館から大作展を、しかも超一流ホテルに三食付で御招待。 このアメリカはけえんだ。 デビューのスケールだって小さな島国の 肥え溜め臭え 何県何郡の田舎温泉美術館とわけが違うぞ。 毎日描くったって売れて売れてがいくらあっても足りやねえ。 そうなりゃあ金なんかに何んでこんなに苦労しだろうか、まるで夢みたいに思えてくる、 ええ- 」


 「じゃあ今度の二人展もそうなるんですねえ。 こりゃあ すげえことになったなあ。 ああ国のおっかあ、お袋が
喜ぶだろうなあ。 やった鬼言、やっばり男だったってよ-。  く く く 兄貴、 今度は嬉し涙が出てきやがった」



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