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-CONCEPT- OLD記事

船上でロブスターを食う

 

Eat a Big Lobster on the Boat

 

1978

 

56×72cm

 アクリル・キャンバス

White Head Eagle 蔵

茹で上がった真紅のラブスターにずばりとナイフが。  甘そうな白身が、紺碧の南海に強烈に映える。

舌を出し、ラブスターを欲しがる鮫が突然現れ、驚きのあまり緑の目が飛び出るラブスターを食す男。

牛チャンの絵は、何かが突然現れそれに驚いている様を描くことが多い。

 

講談 ニューヨークの次郎長・外伝9

 

南海のドバット血のりかな (後)

 

 しけたジョージアのイモ畠からフロリダ半島に突入、晴晴した一家は、高い椰子のそびえる青空を背に一路マイアミシティーヘと南下、デイトナ、バームの大金持ちビーチを横目にオレンジ畠を通過中、
 「ああ、俺もう駄目だ! 親分おまんま食わしてくんろ」
 「俺様だってよ、いくら安売りだったって、二、三十個も食やあ、腹はオレンジ腹でガプガプよ!  タンパク質が足んねえんだよ」
 「金も足んねえよ」
 いよいよ街へ。 海が高層ビルの間に割り込み、コンクリートの大きな橋が陸を結ぶと、大量の車が覆う。 次郎長は車を橋の側の公園に止め、やたちにある釣道具屋からエビの冷凍をひと塊抱えて、戻って来た。
 「親分、それ焼いて食うんでしょう」
 「馬鹿、これはエサだ。 見てな」
 いかにも深く青青した海に、エビを一匹大きなハリにひっかけると、橋の真中から、えい! と投げ込んだ。 たちまち大きな手応え、エビに喰い付いたのは尺物のピンクのタイではないか。 こりゃあすげえと、石、鬼、鮫と子分の面面、針り竿がわりにコーラの空缶を糸巻に、橋に腹這いになり糸を垂れた。 こっちも型のいいタイがかかる。 もう全員夢中。 今度は、ちとでかいぜと、次郎長が掛け声もろ共上げると、勢い余った獲物は、後ろを通過中のシティーバスのウインドーにドスーン。 乗客が目を丸くしている。 夕涼みに来た小ざっぱりした地元の老人が、

「そんなに獲ってどうするんだ」

とたずねた。

「そこの公園で焼いて食うんだよ。 俺達は飢え死寸前なんだぜ。 あばよ!」

よだれを垂らさんばかりの鬼吉。

″よいしょ ″
と獲物を抱えた。 獲り立てのタイの刺身、塩焼きですっかり満足した連中、長長と芝生にのびていると、どこからともなく笛や太鼓の音。
 「何だいありゃあ」。
 物知りの網吉が答えた。
 「へえ、そう言ゃあ 今日は大みそか。 ニューイヤーズ・イブ でっさあ。 夕方からマイアミビーチの海岸通りに、ハイスクール・ムレムレ・ギャルの大行進があるんで、バトンガールを先頭に、アメリカ中ハワイからも駆けつけたミス・ハイスクールが、白鳥に乗ったりラクダの背中で手を振ったり、こりゃあ、見逃がしっこなしでっせえ!」。
 それっと、一同駆け出した。
 最夜中にシティーを出発、さらに南下、キーラーゴ 始め、キーと名の付く幾つもの島が大小の橋で結ばれ、最後に七マイルブリッジと呼ばれる、とんでもなく長いやつを渡り切ると、アメリカ最南端。 お待たせ、 『老人と海』 でおなじみのキーウエスト島に到着。 時あたかも元旦。 水平線にぽつんと現れた火の玉が大きくなるにつれ、あたりが次第にはっきりする。 何と幾十人もの男女がひざを抱えてしゃがみ、御来光を見つめているではないか。 この場所でこのひとときを体験しようと、全国から集まった若者。 この感激はこの場に居合わせた、我我だけのものとの連帯感情でもわいたのか、一服が順番に回って来た。
 「親分、又釣りですねえ。 今度のエサは何ですか」
 「石、見ろこのでけえ釣りバリを、ハリスはワイヤーだぜ、するどい歯でもかみ切られねえためよ」

 次郎長は細長い防波堤の突端から投げ込んだ。
 「ああ、又魚か、だからショーユ持って来いと言ったろう」
 三十分ばかりのスコールが通過し、お天とう様が照りつけ出した頃、馬鹿でかいタイを釣り上げ刺身で平らげている時、

「うあっ、こりゃあでかいぞ、石、鬼、手を貸せ」
と、次郎長がどなった。 手元まで引き寄せたのに、どうしてもても上がらない。 面倒なりと石松が飛び込んだが、 ぎゃーっ と非嶋を上げ、魚から離れた。
 「ものほんの鮫だ!」
 折れてしまった釣り竿にナイフをくくり付け、やたらに突きまくってから引き上げて見ると、頭が二つに分かれ、左右に離れて目玉の付いたハンマーヘッドシヤーク、しゅもく鮫、恐ろしい歯をガチガチ噛み合わせながら、最後のひと暴れところげ回っている。
 「どうする。 食って見るか」
 「あたるかもよ、よそよそ」


 帰路に立ち寄った、ワシントンDCに居を構える文吉親分は、陶芸家として一家をなし、スミソニアン美術館で教ベんを執る一方、自分の家に大きな焼き物のための窯を持ち、弟子を大勢育ててている堂堂とした人物で、舞い込んだ、やせ細り日焼けばかり目立つ オハウち枯らした次郎長一行を暖かく迎えた。 ジザイカギの下がった囲炉裏を囲み、外は厳実の一月に、熱かんと故郷から送らせた特製のくさやの干物で一杯やりながら文吉は、次郎長たちの話を面白そうに聞いていた。 杯が空くと、文吉の内弟子、金髪青目の花子が、カスリの着物に赤い帯をきりっとしめ、石松さん鬼吉さんと横からお酌して回る様に、 へえー、 こんな世界もあったんかと、とげとげしたニューヨークのソーホーアートキチガイ村とは又一味違った別世界に一同感激のしっ放し。 翌朝、こんな幸いが一日でも長続きしてくれよと、広大な庭の片隅で日光浴をしていると、親分が、 

 「鮫、さっきから何やってんだ」

と聞いた。
 「へえ、あっしは、いつか、こんな美しい森と湖と牧場のある大自然に囲まれてこいつをやりてえと思ってたんです」
 と懐からつまみ出して、ひよいと次郎長に見せたオレンジ色の丸薬一粒。
 「何だ、LSDじゃあねえか、そんなもの時代遅れよ! 幻覚にすがって芸術やろうなんて フェアーじやあねえ」
 しかし鮫助はひっこく歯で噛み砕き、よく効きますようにと、舌でこね回し、胃袋に入れちまった。 しばらくすると隣の牧場の柵をとぴ越え走り出した。 花子が慌てて追った。 いい年をした男女が花畠の中で、それもわめきながら逃げる東洋の男を女性が追っかけるシーンは、パトカーを止めて何事かなと眺めていた田舎の警官にも、非常に奇妙に映った。 鬼ゴッコにポリスも参加したので前衝映画のようだ。
 鮫は湖に跳び込みメチャメチャにしぶきを上げていたが、もと水泳選手の花子に助けられ、焼物棚の横に寝かされ三日目、もうこれ以上トリップから醒めなければ、入院してもらおうとの文吉の心配をよそに、急に正気に戻った。 話によると、黄金の矢と化した日光が無数に体を射抜き、草花は大声でしゃべりまくり、はやし立て、蜜蜂の羽音がこれはもう割れんばかりの轟音で狂人のように鮫助の耳を襲ったと言う。



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