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-CONCEPT- OLD記事

キーウエストビーチ

Key West Beach

1979

35×45cm

アクリル・キャンバス

White Head Eagle 蔵

 もらった中古車で、地獄のニューヨークを脱出。 無銭の我々4人組は海パンいっちょで騒げる南をめざして国道1号線一路南下、3日後には、アメリカ最南端、キーウエストの浜に到着。 ぼくはキーウエスト・シリーズの絵画を10数点制作した。 その中の1点。 日焼けクリームの大看板のヌード、その手前にも女性、2匹の鮫を画面に配した。

 

 

講談 ニューヨークの次郎長・外伝8

 

南海のドバット血のりかな (前)

 しんしんと更ける夜、チカチカ小音を立てて雪が窓に積もっていくのが、部屋の内側からも見えるが、暖房の無い倉庫を改造した、ただ だだっ広いだけが取柄のロフトはすでに零下。 親分次郎長を中に綱吉、大政、鮒助がコートに襟巻き、手袋姿で酒もなく白け切っている。
 「あぁ ひでぇ ひでぇ、常連は皆故郷に帰っちまって、今頃お袋たちと暖炉のそばで ホッカホカのターキーディナーにシャンパン・ワインで乾杯してんだろうなあ。 いつも超満員のバーもクリスマスイブはガラすきよ。 ニューヨークってえのは変わってんなあ」
 鬼吉と石松がナマ酔いで、どかどか雪を払いながら入って来た。
 「親分、何んにも飲むものねえんですかい」
 「無え」
 それでも去年は、あちこちから次郎長親分さんぜひうちのパーティーヘと、随分とお誘いも多かった。 しかし餓えた狼みたいなのが四、五人常時ぞろぞろ親分のあとくっ付いて廻り、ロクな会話も出来ず、飲み食いだけは五人前。 それじゃあ少しは気のきいた冗談で人を笑わせるかと思えばさにあらず。 たちまち会話は下品になり、周囲をはばからずわめき立て、果ては裸踊り。 それがたたって今年の暮れはどこからもお呼びが無い、チリンとも璧の電話が鳴ってくれないのだ。
 「チェー、 しけてやら。 今頃日本じゃあボーナス景気。 バー、キャバレーはどんちゃん騒ぎの真っ最中だろうなあ。 どんな貧乏絵描きでも小品の二、三点ぐらいお情けで買ってもらえるんだ。 正月休みだって七日間あるんだぜえ。 温泉行ったりスキーしたり、こたつでモチかしりながら紅白見たり、お年玉もらったり……」
 「やめろ鮫。 馬鹿野郎。 ここをどこだと思ってんだ。 はばかりながら次郎長様のロフトは地獄の一丁目だぞ。 後振り向くんしゃあねえ。 ひと旗揚げなきゃあ死んでも帰りませんと、そう言って、親、親戚、先輩からがっぽり餞別かき集めて来たろう。 使い果たしちまったからって、めそめそす
んな」
 ジーン、ジーン。 この時璧の電話機がやけに景気よく鳴った。 それお呼びだ! 皆の眼が異様に輝き、電話をにらむ。 鬼吉が取る。 

 「へえ、こちら次郎長一家。 は-あ、クリスマスプレゼントに自動車一台だって」
 ど近視の網吉は破れたアメリカ地図にくっつけていた顔を上げると、
 「親分、何が何んでも南に行きましょう。 このままじゃあ全員凍死間違い無しでさあ。 常夏の国、海パンいっちょでただのバナナや椰子の実、パイナップル。 オレンジなんざあ街路樹代わりに植えてあるっていますぜ。 酒だってラム酒、テキーラが馬鹿安よ! 本場もんのピナコラーダやマルガリータをこんなすきっ腹でひっかけたら眼が回っちまうぜ!」
 「さあ金かき集めて出発出発。 95号線、こいつが一番太くて良さそうだ、こいつを下りましょう」
 「馬鹿、こんなピカピカのハイウェー行って見ろ、料金所にやたらにお目に掛かってふんだくられ、いくらあっても足りねえよ。 昔からある有名な 一号線、ナンバー・ワンを下りるのよ。 マイアミはおろか、アメリカ最南端、キーウエストの突っつきまで行ってるぜ。 そこで鮫釣りでもしようぜ。 なあ鮫助」
 「旧道か? 東海道でも横道にそれると追はぎ雲助が出るんだ。 親分田舎道にゃあたちの悪い保安官や、黒人いじめの白頭巾かぶった KKK に、張り付けにされたり火あぶりはごめんですぜえ。イージーライダーだって南部の百姓にぶっ放されたんだ。 宿はホテルで、それともドライブインの駐車場だったら、ただで野宿出来るんじゃあ」
 「そんなもの無えよ。 さあ一人頭五十ドル出しな。 大政お前は留守番だ。 五人か、しめて二百五十ドル。 ラーメン一箱三十個。 ゴザ、破れテント、釣竿にギター いっちょか」
 「で、車検や保険は」
 「俺はパスポートもビザも無えよ。 ポリにつかまったら強制送還だ」

と泣き顔の鮫助をしり目に、

「まあ、あっしの一時停止の国際免許証で我慢してくだせえ」

と綱吉。


 ポロ車とはいえ とにかく動いた。 喚声と共に勢いよく大雪のマンハッタンを出発。 一路南へ。
 「ぎゃっ はっはっはあ、 ああ気持ちがええ、どんどん気温が上昇しているぜ。 えいズボンも脱いじゃえ。 森や湖もちらほら、いよいよ天国はもうすぐだ!」
 貧乏臭いジョージアの綿畠を過ぎる頃、もう我慢出来ませんと右松のうめきに、じゃあ一杯行くかと車を止めて見たが、あたりは真暗闇。 ポツンと見える明りをたよりに畠を突っ切り、近づくと丸太で造ったでっかい平屋の屋根は赤い電球で縁取ってある。
  「酒場に違えねえ。 しかしお寒い感じ」
 ドアを開けると懐しいアルコールの臭いがぷ-ん。 ギターを背にした鬼吉を先頭に、手さぐりでカウンターにしがみつく。 お客は全員黒人。

  「よお、東洋人は俺たちの兄弟だ。 二ューヨークからか、シティーボーイだな」
 やたらにビンの割れる音がする。 ボーイが空ビンを大樽に片っ端からたたき込んでいる。
 「親分畠の向こうにもう一軒ありますよ。 場所を替えましょう」
 そこは長いウンターが左の端に二十メートルぐらい続き、でっかい赤地に十三の星の南軍の旗が璧に下がり、古臭いカントリーソングが流れている。 カウンターには、めずらしく金髪が四人もいたが、全員大年増。 鋭い目付きで入って来た一行をじろりとなめ回した。 しかもブーツをはいた片足はドカーンとカウンター上に、西部劇のカラミテージェーンそっくり。 カウボーイハットが一人ずかずかと近づくと、いきなりコブシを鮫助の顔前に突き出して 

「見ろ、俺様の手の小指が無えだろう。 太平洋戦争でお前らのおやじに銃弾で吹っ飛ばされたのよ」
とわめくと、顔にこすり付けた。

 「きゃあ、気持ち悪いよこのおやじ」。
 「鬼、一曲聞かしてやれ」
 「OK」
 鬼吉は背中のギターをぐるりと前に回すと、馬鹿でかい声で坂本九ちゃんのスキヤキソング (上を向いて歩こう) をバー一杯に響かせた。
 ふた昔前全米で大ヒットしたこの曲の効果はてき面。 連中いっペんに笑顔になると、飲め飲めとオゴリのビールで、一行ふらふらで車にたどり着いた。 翌朝ジョージアの州境を突破、遂にフロリダ半島に入った。 ウェルカムマイアミの大アーチをくぐると、手入れの行きとどいた緑の公園。
 ごろりと寝そべれば、高い青空に育ちまくった大椰子の木がそびえる。
「ああ、はるばる来たぜ、南国!」

 

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