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-CONCEPT- OLD記事

サイケデリック眼鏡

1967

草月会館にて

 

講談 ニューヨークの次郎長・外伝7

牛太郎売り出す

 

  「宇吉さん、もう勘弁してくださいな」
  「だったら素直に一本貸しない。  たかが焼酎一升ぐらいでベそかくない。 それとも一踊りこの店の前で、よかちんやってやろうか。 たちまち昼間の買い物客が皆大目玉ひんむいて集まって来るぜ」
  「仕方がない。 もうこれっきりですよ」
 字吉に素っ裸で踊られたんでは店の面目まるつぶれ。 もう何十回とこの手で酒を巻き上げられていた。
  「あっはっはあ、うまくいきやしたねえ親分」
 小原庄助、深酒春夫は一升びんを抱え、意気揚揚と七軒町のポロ屋に戻ると、牛太郎が待っていた。
 「宇吉親分に兄いたち、出番です。 絵を描いておくんなさい。 あっしの分と合わせ、上軒の森の美術館に運び込みましょう。 こんないい作品発表のチャンスを逃がす手はありませんぜ。 ふだん、酒屋をはじめフロ屋、コロッケ屋と泣かせっぱなしなんだ。 バリーッと大美術館の壁に親分衆の大作画を作り、見ろこの実力と、やつらの度肝を抜いてやりましょう。 ふだんは呑んだくれでも、いざとなりゃあすげえぞ」
 「いいけど、絵具屋のツケはこれ以上きかねえぜ。 どうゃってお絵描きをすんだい」
 「馬鹿野郎、頭を使え、簡単よ。平べってえものに描きゃ、何んだって絵だ絵だの御時世。 そこの路地裏の板塀引っはがして来い。 腐ったペンキなら角のペンキ屋が毎日捨ててるじゃあねえか。 一銭もかからねえよ。 その上この美術展は新聞社が宣伝をかねた企画。 入選落選はおろか金賞だ銅賞だのケチ臭え人間様のあかは何もねえんだと。 運び込んだ順に誰の作品だろうと、糞がひっ付いていようと、全部壁に飾ってくださるってえ、有難てえ美術館だそうだ。 解ったら俺たちも一肌ぬごうじゃあねえか。 よし景気付けの前祝いだ、牛太郎踊れ踊れ」
 上野芸術大学、第一の大先輩よかちん踊りの天才、吉良の宇吉が、何年ぶりかで絵筆をお握りになるというので、ちょっとでもつばの付いているあちこちの子分共が、お祝だとばかり手土産下げてぞくぞく集まり、ボロ屋は屋根裏も含めてすし詰め。 全員男は、裸、女は大あぐらで、呑めや踊れやの連日の騒ぎにになり、たとえ板堀キャンバスが用意されてても、ペンキをなすくり付ける暇もない。 これじゃあいかん、酔いを覚まそうと拾った風呂桶で河とか湯をわかし、朝風呂をいただいたまではよかったが、宇吉の心の臓が止まってしまい大往生。


 「あのー 学芸部のかた誰かに会いたいんですけど」

「あなたロカピリー歌手? そんなインデアンみたいに頭刈って売り込みに来たって駄目よ。 どこのプロダクションよ」、
「芸能人じゃあないんです。 僕画家です。 アクション ペインティング アーティストなんですけど」、「とく頭痛でしょう? そのはげ、うつるとやだから早く帰んなさい」


 宇吉の遺言は、そうでなくても大芸術家になるまでは家の敷居はまたがせないぞと、両親のしった激励の上、牛太郎により大きなプレッシャー。
 死際に宇吉は叫んだ 「牛、何が何でもデビューするんだ。 俺はもう三づの川を渡りかけてる。 お前は若い。 少しぐらい命を短くしてでも売り出せ。 美大の時代遅れなお説教を有難やと、う呑みにしてたら、一生駆出し者の三ピン止まりだ。どんなことしてでも売り出せよ!」
 と牛の肩をわしづかみにして息を引き取った。


 仏になっても宇吉の人気はすさまじかった。 特大の棺桶に収まった死顔に一目お別れをと、最後の面会に参列する子分共の振り掛ける花びらと焼酎で棺は洪水状態。 その上ラストキスをと押しかける女性ファンが、夏のためドライアイスで目もあけられない臭気も何のその 顔をガバと突っ込み接吻。

 「いつまで吸い付いていんのよ! あとがつっかえてんのよ」

 何が何でもがあげくの果て、牛太郎は自分自身を造型した。 インディアン刈りの一本線頭、染料をたたきつけたシャツ、細工した細ズボンで、売り込みに歩く姿は目立つが、一人じゃあ力不足。 よし、子分集めろだ。
 粗大ゴミの山ばかりの美術展に記者もヘキエキ。
 「しかし絵描きさんのグループなのに清水郎長一家展はないでしょう。 次郎長は幕末のやくざ者でしょう」
 名前も大政、小政、半五郎、鬼吉、綱吉と変えたヤングアーティスト等だが、朝から酒をたずさえ、ここ日比谷公園黒池画廊に集まる宿無し連中。 都民に貢献度のある文化的催しに限るということでこの画廊は、秋の菊人形展、春の白色セメント造形展が人気の的。 しかし、何のはずみか次郎長一家が、二週間分会場費を前払い借り切って、おっぱじめてしまった。 

 夜は公園のどこかで一夜を明かす有様のアーティストは、異様な芸術ファッションに正装、有楽町、4丁目、並木通りに出没、街頭芸術を次々に披露。 昼休みのオフィスマンは大喜び。 かつて牛太郎を門前払いした各社も一斉取材。 切れた電球を何十個も体に縛り付けていた鬼吉はアベックと見ると足元に投げつけたり、下宿のフトンを体に巻きつけた綱吉の臭気に足早に駆け抜ける通行人。 こちらでは大政。小政が、台所の吉ナベ、カマで武装し、大立ち回りで交番の前に人垣きを作っている。 公園の花壇でアクションペインティングを繰り返していた牛太郎、赤、青、黄と泥絵具だらけの体でえい面倒なりとばかり、ペリカンの池で一緒に泳ぎ出してしまった。

 

 ”世界トップレベルの芸術家集団日本に誕生”

 

とぶちあげたのは日本国際観光新聞というエロ新聞だけ。 帰宅した牛太郎を見付けたオヤジは、方向を間違えていると泣きじゃくる母親を横目に、

 

「馬鹿野郎。 わしは会社をやめねばならぬぞ」

 

と激怒。 手に握りしめている新聞にも

”前衛画家、銀座で大暴れ”

の活字が躍っていた。

 

 


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