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-CONCEPT- OLD記事

スカーフェイス

Scarface

1963

156×190×25cm

蛍光塗料・ラッカー・石膏・キャンバス

個人蔵

岡本太郎美術館展示中

                

                                                            講談ニュ-ヨークの次郎長 外伝5

チキテリの勝五郎の義心

 

 「親分、又出やしたよ」。 勝五郎が持って来た ギャベッヂバッグをドーンとテーブルに置くと、待ってましたと、腹を減らした、鬼吉 網吉 鮫助ら子分共が、わっととびつき、一斉に晩飯の仕度が始まった。 何とギャベッヂ袋の中身は、鶏の頭、首、ハツ、モツに足が一杯。  これらを器用に、焼鳥用に竹ぐし刺すやつ、頭と首でスープをこさえるやつ、それに足は唐子と煮込み、づるっと口の中で骨から皮をしゃぶり取れる程柔らかくなる。
 こうなるとそこらのレストラン顔負け。 その上今日はデザート付き。
 「店に出入する仕入れのやつに声掛けといたんだ。 ちょっと日にちが過ぎてるかも知れねえけれど、食えねえことねえと思うよ」

と  みず洋かんにトコロテンのパックを出した。
 「大丈夫か勝兄い、日付そうとう古いぜ」
 「鬼吉さん、あんたの腹なら下痢なんざあしねえよ」
 レストラン・チキテリ店はダウンタウン ブロードウェイとキャナル運河通りの角にある。  はるばる日本から来たピカピカ観光客さんがタクシーでこの辺りに降ろされたとしたら、

「ええ、ここは本当にアメリカなんかいな」 

といぶかしがる程の人種のるつぼ地区。  ハリウッド映画風 金髪 縁目 背広姿の代わり、中・南米、オリエンタル、アラブ、インドの出稼ぎ移民軍団と、イタリア街のフェスタか支那料理をめざしたヨーロッパ観光客か近郊の家族づれで一杯。  連中、アメ横風に小店のギッシリ並んだ雑貨と車であふれる狭い道路をいそがしそうに通行する。  支那語で歌いまくるエルビスやビートルズ。  日本ポルノ館。  それに次郎長一家お気に入りの運河通りトップレス。 

 物好きな連中にとってはこんな楽しい場所が世の中に二つとあってたまるけえ!  である。  勝五郎がマネージャーにおさまってるレストラン・チキテリ店はこのど真ん中にあるのだった。
 すでにゆで上がつたチキンを客の目の前でバーベキューして 焦げ目を付け、しよう油、ミリン、片栗のタレをかけ、横にライスで、はい日本風テリ焼きチキンでございと出せぱ、アップタウンでは目玉が跳び出る値段だと聞かされてる日本料理が、わずか 一ドル二五セントと知り、 ランチタイムの行列はすごく、店内は戦争。

”へい いらっしゃい! お次の方。 はいお勘定”

と、てきぱきさばく勝五郎は、吉永小百合の弟かと目を疑う程、にがみ走ったいい男。  そうだろう、遊び場所は、赤坂 青山 六本木、めきめき売り出し中のテレビタレント、だが役者を嫌って水商売。  流れ流れてこの運河通りに根を下ろしたと言うわけ。
 「ねえ次郎長親分、あの頃はほんとに毎晩面白えことばっかりだったぜ。  女の娘も皆ギンギラ。  カエデにコノミ、ポチにジョン、カマスなんて名のいい娘がいたっけなあ」
 「カマスの塩焼きか、しばらく食ってねえなあ」
 「それにひきかえ、ここはメチャクチャよ! アメリカに来てるってえ気がちっともしやしねえ。  客種がひど過ぎるよ。  常連客は狂人か変態みたいのばっかりだ。  コーヒー半分飲んでミルクで又一杯にしてから、これは冷えてるから熱いのと替えろ! なんてえのは可愛い方。  コーヒーにタバスコ入れて飲んでいるやつがいるんですぜ」
 何んとか次郎長一家の困窮を救おうと、つれて来た六本木時代の勝五郎の親分格の男、名を 身受山の康太郎がピンクのシルクの着流し姿でロフトに現れた。  自称虚業家を名乗る康太郎は、すでに日本にヘビー級ボクシング試合を持ち込んだり、イギリスのネス潮に怪獣退治に出かけたりと評判のいい男。
 「次郎長さん大層お困りのようですねえ。  あっしは芸術には金を出しませんが、いい知恵をお貸しますよ」  

 と、電話を掛けていたが、

「いかがです、これだけ大勢の子分さんだ。  パーティーを開きませんか。  いやバクチ場を開帳しようってえんではありません。  アップタウンから上客を連れて来ます。  連中売れっ子の漫画家さんたちで、退屈し切ってホテルであくぴばかり。  酒さかなはこちらでたっぶり用意しますから、変わった踊りでも披露して盛り上げましょう。  そこで腹一杯皆に食わしてやってください」
 その身受山が今度は勝五郎の外に、一人の四国生まれの目付きの鋭い唐手武芸者をともなってやって来た。
 「わっはっはっはあ。  次郎長親分、今度は唐手でこの先生が虎をやっつける絵を措いてくださいな。  記者会見の会場に張るんで、すごいことになりますよ。  ニューヨークッ子が腰を抜かしやがるぜ。  タイムズ、デイリー、ポスト、テレビとマスコミ全部が書き立て報道しますよ。  来週はこの身受山、うっかりこの辺を歩けないでしょう。  質問責め、サイン責めに合うはず」


 「キエー。」

掛け声もろとも三十枚の屋根がわらが唐手の横なぎで真っ二つに割れ散った。

「オー」

 と記者席からため息。  三枚積み氷割り、バット二本すねげり折り、得意満面の身受山は、

「この唐手マンこそ今度マジソンスクェアーガーデンで猛虎と一騎打ちする命知らずだ」

と発表。  会場である超高級日本レストラン・日本橋に招かれた記者団は、サーブされ酒をやりながら目を白黒させている。  無論、実演のバックは次郎長が揮ごうした虎退治の大作画。  虎の爪の一つは出刃包丁ぐらいあり、引っかかれたらひとたまりもない。  こんな猛猷と短い棒一本と唐手だけでオリの中で対決すると言うのだ。  しかも相手の印度ベンガル産の猛虎はすでに船積みされ米国に向かっているらしい。  翌日の新聞は一斉に書きまくったが、おかげで動物愛護協会から、虎が可哀相だとクレームが付き、場所探しにあちこち南国のハイチまで行って見たが遂に流れてしまいました。



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