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-CONCEPT- OLD記事

ワンダー・ウーマン

Wonder woman

 

1976

 

30 x 20  cm

 

カートボード・アクリル

 

ニューヨークの次郎長

 

第43回  増川の仙右衛門

 アメリカ独立記念日、七月四日、夏のど真中、じりじり照り続けられる摩天楼渓谷でうごめくゴキブリたちは、もう臭くて、暑くて、恐しいこの街から逃げ出したいが、子宝に、こう恵まれ過ぎてては、身動きが出来ない。 ヨーロッパ、カナダ、スイスと涼しい国への豪華バカンスは夢、エネルギーを持て余す子供たちを何とかしてやらねば。 だが出来ることと云えば、通りの消火栓を特大のスパナで開け、水浴びさせることぐらい。 これも水圧が下り、放水がビルの上階に届かなくなるのでパトカーが頻繁に見張り、ままならぬ。 フラストレーションはたまる一方。  


 しかし今日はいつもと違う。 市は挙げて、街を清掃、飾り立て、人人は逆に、この街目指して集まって来る、遠く外国からも。

 
 パレードで一杯のフィフスアベニュー。 大統領の演説。 ワシントンでも、ロスでも、ダラスでも。 この日は、アメリカ中が、二百数年前の一七七六年、ジョージ・ワシントンの独立戦争の勝利を祝い、青、赤、白の星条旗ばかり。 テレビは戦争映画ばかり。 花火は、ここを先途(せんど)と、駐車場に、ビルの谷間に爆発音をとどろかす。 自由の女神附近の海上も、通りに、夕方からの大花火大会見物のため、大小のヨットボートで一杯。 南端、バッテリー公園の花火見物用桟敷もすでに黒山の人出、歩行者天国をねり歩く軍隊行進曲ばかり演奏するブラスバンドたち。 

 

 屋台の食物屋から、もうもうとイタリアンソーセージの肉の焦げる煙が、歩き疲れた胃袋を刺激する。 各国自慢の街頭芸人の中でも、人気は、空手、剣道の、真剣によるデモンストレーションだ。 道化師が身の丈以上の竹馬で歩けば、騎馬警官が、馬上から、かっぱらいに目を光らせ、シティーホール公園周辺は、早くも、太鼓と笛の楽隊を先頭に、南軍スタイルの、昔懐かしい"風と共に去りぬ"の主役や、西部開拓魂のウエスタンワゴンが、行進し始め出している。 続いて、ミス・アメリカが白鳥の台座から手を振れば、ヤンキース、メッツの人気野球選手から、三本マストの移民船、後から後から趣向をこらした山車(だし)が現れる。 見物人は人垣を、かき分けたり、跳び上ったりでもうくたくた。 絶え間ない花火の爆音。 

 

 片やアップタウンでも同じこと。 ケネディーの葬式を行った、セント・パトリック大寺院は、ドアーを開け放ち、一般公開。 セントラル・パークサウスに建ち並んだ高級ホテルのテラスカフェでは、三色お祭りカラーのリボンを巻き付けたかんかん帽、白い背広の田舎紳士と女房連が、白いテーブルを囲み、星条旗の小旗を手に手に、市内観光見物もかねて大はしゃぎ、高笑いでシャンパングラスを、カチンカチン合せ、見物馬車も造花で飾り立てられ、今日こそはと、客を満載して公園内を、そこらじゅう馬糞だらけにして駆け廻っていた。 


 清水次郎長のロフトでは、苺と梅次が、心配事で、たこ目を囲んでいた。 


「たこ目、ひどい頭になっちゃったねえ」


「ちぢれっ毛になった上、ところどころ、やけどで、皮がずりむけ、ピンク色に光ってる。 痛そう」


「大政の馬鹿野郎、あんなペラべラ女に、襟髪(えりがみ)つかまれ連れ去られちまって、本当に婚約者なの」


「今頃、コニーアイランドの桟橋あたりで、アイスクリームのなめっこしてるぜ」


「とっくに日本に帰ってるわよ」


 苺は塗り薬を、焼けただれた、たこ目の頭にすり込んでやっていた。 


「いいのよもう、私が馬鹿だったんだから、私も日本に帰るわ」


「でも、こんなはげ頭じゃあ、親がびっくりして腰抜かすわ、年寄りなんでしょう、御両親」


「それより、ケネディーや成田の税関、通れるかなあ、伝染病だと疑われたらおしまいだぜ、病院に送られ、下手すれば、強制送還、二度とアメリカに入れなくなるぞ」


 それを聞くと、たこ目は、又、わっと泣き出してしまった。 


 ドラッグストアーから、豚熊が、これがやけどに一番効く、と云う薬を買って帰って来た。 


「今日は、化け物座敷のオープンの日だって云うのに、ロフトでカチカチ山のたぬきさんとお留守番か、いい天気だぜ、空には花火がポンポン、俺、ちょっと外、見物して来ていいだろう、アメリカに来て、インデペンデント・デー、初めてなんだよ、苺、梅次、一緒に外に行って何か喰おう、たこ目には、テイクアウトで、元気の出るもの買って来てやるからな」

「私、何にも食べたくない」


 奇麗に染めた金髭を、ジェルでおっ立て、可愛い苺の赤いイヤリングを付けると、苺たち三人は、たこ目を残して、外に飛び出して行った。 


 ちょっと間を置いて、ロフトのドアーを、ドンドンたたく音に、たこ目は、タオルをすっぽりかぶり、自分の蚕棚三段ベッドの一番上から、のそのそ降り、五十米はある、広いフロアーを横切り、ドアーに向って答えた。 


「誰、下のかぎ開いてたの」


「すいません、ドアーが少し開いてたもんで、そのまま三階まで駆け上り、ここに来てます、申し遅れましたが、私、増川の仙右衛門と申す駆け出し者で、港区南青山に事務所のある、男性月刊誌、国際男の記者をしております、次郎長親分が、ニューヨークで、えらい羽振りとかのニュースに、貫禄のけた違いな三ぴんの仙右衛門、ぶしつけで失礼なことは重重承知の上で、次郎長親分を、インタービューいたしたく、又、出来ましたら写真を撮らせていただきたく参上した次第で」

 


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