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-CONCEPT- OLD記事

カンザシ・オートバイ

KANZASHI MOTORCYCLE

 

1987

 

100 x 50 x 115  cm

 

カードボード・アクリル・ポリエステル樹脂

 

ニューヨークの次郎長

 

第41回  夏草や悪がき達の夢のあと

 

「まあ、それじゃあ女性のエクスタシーの瞬間というわけね、苺ちゃんには、ぜひなけりゃあねえ」


「ところで鶴さん、化け物屋敷は、どこにおっ建てるんだい」


「向うに見えるぼろ小屋です」


 そこは遊園地の中でも、特にうすら寂れた場所で、ほとんどの機械は壊れたまま、うっちゃらかされ、雑草の伸びるに任せてある。 


 ウエスタン調にデコレーションしたお猿の電車が、脱線し、鉄橋下の草むらに、つながったまま落ち、チケット売場だったらしい、ペンキのはげた、窓ガラスの無い、トンガリ帽子の小屋。 壁に、一回十五セントと二十年前の料金が記してある。 いたずらに放火したのか、小屋は半分消し炭になり、空缶や古スニーカーが投げ込まれてしまっていた。 附近一帯は、緑一色、雑草の間から、昔の、子供自動車レース場跡の倒れた銑柵、それにも朝顔のつるが巻き付き、かつての活気と喧騒を覆い隠してしまっていた。 

 

「夏草や、悪ガキたちの夢のあと」

 

「あら鮫ちゃん、学あるわねえ」

 

「こんなうすら寂れたところに連れて来られちゃあ、いくらアメリカでも、俳句の一つも出ますぜ、がっかりさせやがら」

 

「そう泣きなさんなって、鮫助、私なんざあ、アメリカに来てから、がっかりのし通しだったんだからねえ」

 

 石松は小屋の周囲を、一廻りして見た。

 

「ひでえ壊れようだ、後半分は、やはり火付けで焼け落ちてやがら、墓石でも一つおっ建てりゃあ、このままで、立流な化け物座敷だ」

 

「犬、猫の首でも二つ三つ、周りに埋めときゃあ、夜は狐火が出るんじゃあない、あちこちから、怨霊が集まって来て、賑やかになるぞ」

 

「怪談、雨月物語ってえところだな」

 

 道路を挟んで反対側では、やっとお目覚めらしく、ちらほらある店が、戸を外し、客も居ないのに、店開きを始め出した。 空気銃や水鉄砲の射手座には、天井一杯に、パンダやキリンの縫いぐるみが下り、ジプシーの占い屋のウインドーには、下手糞(へたくそ)な手の平の絵が描かれ、赤い線や十二支の動物があり、ホットドッグスタンドの隣が、ロンドンのろう人形館を真似、エルビスやケネディー、マッカーサー将軍の像を見せ物にしている。 軍人募集のオフィスまであり、海軍の制服姿が、朝っばらから机に向っていた。 この道路が大通りにぶつかった角にバーがあり、林立した酒びんにまで朝日が差し込んでいる、無論ここでも、かしの木のカウンターを挟んで飲んでいるはずのパーティーも客の影もなかった。 ただ五月晴の太陽と清風だけは、ふんだんに、この地区に、あふれていた。 

 

 白髪混り、赤ら顔の老人が、どこからともなく現れ、無音で、石松たちが、茫然と眺めているぼろ屋のかぎを、こじあけようとした。 ぐるぐる巻きにしてある鎖を外すとドアーを押し開いた。 焼け落ちた天井の一部から、日光が差し込み、床のガラクタや、赤さびたトロッコの線路が、大きな楕円を描いて走っているのが見えた。 

 

「ジョーから電話もらっているよ、あんたらだろう、ここで何かおっ始めるって云う絵描きさんたちは、七月四日のアメリカ独立記念日にオープンしたいらしい、大通りの北の端に材木屋がある、好きなものを使ってくれ、話は通っている、じゃああばよ、かぎは、あんたらで、三つ四つ付けとくんだな、こそ泥が多いからな」

 

 呆気にとられている連中を尻目に、チェックのシャツの老人は、すたすた行ってしまった。 向い側の店から、若者が、ちらちら、こちらを見ている。 

 

「皆な、俺たちの来るのを知ってるんだ」

 

 鶴吉が慌てて老人を追っ掛けて行ったが、すぐ戻って来た。 

 

「どうなんだ鶴吉」

 

「いちから始めるしかありゃあせん」

 

「どういうこと鶴さん、豪華ホテルに食事付き、ひと汗かいたら熱いシャワーを浴び、夜はディスコか、ムードあふれる、マイアミの様なバーやクラブで、カクテルじゃあなかったの」

 

「又失望ね、苺ちゃん」

 

 牡丹灯籠は、軽蔑気味に苺を見下しながら続けた。 


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