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-CONCEPT- OLD記事

モハーク・オートバイ

 

1978

 

25 X 40 X 15  cm

 

カードボード・アクリル・ポリエステル樹脂

 

ニューヨークの次郎長

 

第40回  夏草や悪がき達の夢のあと

 

 だだっ広い大通りが、海と並行に東西に走り、これと砂浜まで約三百米(メートル)、この、通りと海に挟まれた、横一キロぐらいの細長い空間に、木造平屋の見世物小屋や、各種乗物が、ぎっしり詰まり、大きな英語を書きまくった、原色の看板が、一軒一軒に、処かまわずたたき付けられ、それらを、電球玉やネオンサインが縁取っていた。 二階建以上は一軒もない、この押しつぶされた、極彩色(ごくさいしき)の難民キャンプの様な平面から、にょきにょき、前世紀の怪獣、ダイナソアーズが、青空に突き出してる、云わずと知れた、世界一長い、ジェットコースター。 隣は、無数のゴンドラ箱を、周囲に取り付けた、直径五十米の、回転ワンダーウィール。 真っすぐそびえ立つ落下傘塔や展望塔である。

 しかし、シーズンオフの今日は、すべて無音で、しんと静まり返り、何やら薄気味悪い。

 

 そう云えば、自動車のほとんど走っていない大通りに、信号だけが、さっきから点滅を繰返しているのが異常だ。 トワイライトゾーンや、未来映画のセットを思わせる。

 
 釣ざおを持った若者が、一人二人、桟橋に向ってすたすた行くと、よたよたした、灰色だったか、汚れてそうなったのか、ぼろ服にノー靴下の、ひげもじゃ赤ら顔の男が、角から現れ、目は宙をにらみ、手だけは前に突出し、一行の一人一人に、お恵みをと追って来たが、相手にされず、そのままの姿勢で過ぎて行った。


「朝食にしましょうや、シーフードの喰い放題、景気つけなきゃあ、これじゃあ、滅入っちまいますぜ、ねえ石松兄い」


 鶴吉を先頭に、通りを渡って、角地を占める、でかいレストランに近づいた。 二十四時間営業、年中無休で有名な、立喰いの店、名前はネイサンズ。

 
 脱皮したばかりの甲羅の柔かいカニの丸揚げを、二枚の食パンに挟み、タルタルソースをたっぷり塗り付け、ビールでばくつく。


「いけるわー、食べてる時が一番幸せ」


「苺ちゃん、あんた子供ねえ」


 牡丹は、口をソースでべたべた忙している苺をからかい出した。 


「石さんとは、プラトニックラブなんだって」


「へえだ、私はセックス出来ないんだよ、男なんだから、それより、あんたと鮫助さんは、色狂いだって評判よ」


「いくらセックスに夢中になったって、良い絵は描けるわよ、苺はやるのが怖いんだろ、いつか私が手ほどきしてやる、それよりかさあ、たこ目は大政に真剣よ、あんな、ふにゃふにゃの優男大嫌い、格好ばかしっけやがってさ」


「日本では大政さんは、山の手のお屋敷の坊ちゃん育ちで、朝から晩まで、お手伝いさんが付きっきり、下着も自分じゃあ替えたことがなかったって云ってたわよ、それに、アメリカに来たばかりの時、何かのショックで、ずっとインポになったんだってさ」


「苺、お前インポって何だか知ってんの、たこ目のやつ、泣きを見なけりゃあいいけれど、そのうち大政頂いちゃおうかな、そしたらインポ直してやるんだけれど」


 一方、男性たちは、クラムのカウンターで、なまはまぐり、なまがき、ゆでエビに、レモンとホースラデイッシュを乗せ、ぱくついていた。 


「うふふ、このかき、ぴくぴくしてやら、こんな新鮮なのをビールでやれるなんて、極楽だぜ、精力つくねえ、梅次、大政にも、たくさん喰えと云ってやれよ、インポ直っちゃうぜ」


「恋愛中のお二人さんだ、鮫、ほっとけ、さあぶらぶら行こう」


 砂浜に、高さ五米ぐらいの幅の広い木製の践橋が、海岸に沿って二キロぐらい続き、格好のマラソンコースであるが、よたよた走っている数人は、なめし皮のように日焼した皮膚をした地元のジョガー老人だけ。 海に向けて備え付けた長椅子にも、ぽつんぼつんと、老人が休憩していた。 落下傘塔はさび付きっ放しで動いていなかった。

 
 「ええ、二十年頃前までは、人気の的で、五、六個の落下傘が、お客を釣り上げて行って一番高いところから離すんです、無論命綱はつけたままですが、ふわふわと、この遊園地の全景を見物しながら、最初から恐怖で泣きっ放しの可愛娘ちゃんが、白いスカートでもはいていれば、下の見物人は、そりゃあ大した見物でしたよ、風の強い日に、二、三個が、絡まってしまい、中央の石の塔にぶつかる事故が起き、以来、止めちまったんです。 ほらあっちの大きなジェットコースター、あれも事故で止まったままです」


「すごいわ、乗ってみたいわ、苺」


 巨大な雲形定規を二、三枚合せた格好で、上下左右にカーブしたレールを、何千本もの黒い鉄の柱が縦横に支え、この鉄の林を、五、六両連結のトロッコが、人間を満載して疾走するのだ。

 
「垂れ流しで失神するぜ」



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