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-CONCEPT- OLD記事

モーターサイクル

MOTOR CYCLE

 

1976

 

20 X 30 X 15  cm

 

カードボード・アクリル・ポリエステル樹脂

 

ニューヨークの次郎長

 

第39回  夏草や悪がき達の夢のあと

 

 地下鉄、Nラインの終点、コニーアイランド海岸遊園地駅は、見晴しのよい高台で、やはり潮風がうまい。 遠くに二十五階建のレンガ造りのアパート群が見える以外に、高層ビルは一つもなく、でかいガソリンタンクと、眼下に、広い電車の操車場が見えた。 ああここだな、夜中に引込み線に入って来た電車めがけて、マジックマーカーやスプレー缶を手にしたガキたちの落書き攻勢で、新品の電車でも、たちまち芸術作品の鉄箱に仕上げられてしまうんだ。 すえた水たまりの運河が走り、片側は、ポンコツ自動車が、山と積まれて、さび付き、対岸は、木造のボロ小屋が並び、ドラム缶や、ガラクタが雑草の中に投げ捨てられ、人影は全く無い。 放し飼いの数匹の白いアヒルが目に染みる。 


「さあ着いたぞ、でっかい仕事が俺たちを待っている」


「寂しい所ね、ここ世界一の遊園地なの、本当に」


「うふふ、コニーアイランド様様。 この石松が、一世一代の腕を振って、皆様の度肝を抜いて見せるお化け屋敷を、お作りあそばすんだ、すげえ報酬、大金が、ドルで転り込むってわけよ、材料は何でも使い放題、お泊りは、高級ホテルで、飲み放題喰い放題と来りゃあ云うことねえなあ、そうなんだろう鶴吉兄い、大家のジョー・ガリレオと、そう約束したんだろ」


「ああ、苺ちゃんも、石松さんに付いて来てよかったわ、大いにハッスルして、怪人二十面相でも作ろうかなあ」


 勝手な夢で頭を一杯にしながら、一行は、ぞろぞろ階段を、改札に向って降りて行った。 


 黄色いペンキが塗りたくられた鉄のドアーを、力一杯強く押し開いて出たが、だだっ広い構内は、依然暗い、だがコニーアイランドはすでに、ここから始まっていた。 


 薄汚ない土産屋の行列、まずビーチボールや、白鳥や鮫やかえるの浮袋、麦わら帽から金モールの船長帽、サングラス、タオル、水着などが山積にされた、お子様向け安物店、品物に埋まって、老人のはげ頭だけ見えた。  次がホットドッグ売りのカウンターだ。 ソーダ缶の間に、マスタードとケチャップの黄色と赤の大瓶が並び、ふたに付いた金属のレバーを強く押し下げると、どっと流れ出し、好きなだけ掛けてばくつくのだが、ここも無人。 その前の店が、本格的揚物屋わらじの様なメンチカツからドッグ、芋、カニ、エビ、チキンからカエルのももまで、狐色のころもを付け、揚げて、ガラスケース一杯に投げ出されているが、店番が居ない。 


「あら、おいしそう、買って食べない」


 無人の店だ。 隅の油は冷え切ったまま。 


「おとといの天ぷらじゃあねえのか」


「冷めれば、何度でも揚げ直して売るんだよ」


 その隣が、三、四軒ぶち抜いた、細長いカウンターが窓越しに見えるバー。 赤、青の豆電球や、クリスマスの残り物の飾りまで見える。 ここは営業中、ドアーや壁に、トップレス・ゴーゴーガールと大書してある。 


「朝から裸ですか、一杯ひっかけましょうよ」


 とねだる梅次を引きずって、やっと出口附近に出た。 日焼用、日焼止め用クリームや、フィルム、絵葉書、サングラスを並べた店に、美少女が一人、高い椅子に足を広げて腰掛け、ほおづえをついて、ぼーっと、店番をしている。 金髭、色白、彫が深く、鋭角的鼻、まだガキのくせに物憂いひとみと長いまつげは、実に日本人好みのする顔である。 


「おお、ひなにはまれな、何か一つ買ってやろうか、それ忙しても、学校行かねえのか、この娘、小学校で、もう落ちこぼれてんのか」


「鮫助、眠気すっ飛んだ、もうでれ助になってやがんの、後に怖いお兄さんがいるのが見えないのかい」


「本当だ、牡丹ちゃん、その辺の事情、よく解ってんだなあ」


 確かに、目付きの鈍いやつが、よれよれのランニングで、栄養不良の細長い腕を出し、段ボール箱から、ガラクタを出し入れするのに余念がない。 


 やっと薄暗い名店街通路を抜け、太陽のまぶしい外に出た。 道路は、ペンペン草だらけ、崩れ、はぎ取られたコンクリートの下から顔を出している、クリーム色の乾いた土を、踏みつぶされた空缶、たばこ、びんが覆い、それらのすき間から雑草が、たくましく伸び育って来ている。

 

 太い金網で出来たごみ入れが、辻ごとに投げ出され、満タンの黒いギャベッジバッグが、幾つも、これでもかと、その中に押し込んである周りを、飢え切ったかもめの大群が群がり、食物を求めて、飛び廻り、歩き廻っているではないか。 


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