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-CONCEPT- OLD記事

ビーチ・バッサ-

BEACH BATHER

 

1978

 

30 x 40 x 15  cm

 

カードボード・アクリル・ポリエステル樹脂

 

ニューヨークの次郎長

 

第38回  地下鉄で大騒ぎ

 

「私、日本に五年居ました、知ってます、やくざ映画の撮影ですか、すいません座ってもいいですか」


 石松の横に、腰を下ろすと、にこにこ顔で喋り出した。 


「私、日本で、神に仕えていました、天国と地獄のことです、天国にいらっしゃる神を信じますか、どこに行くのですか、少し時間をください、やくざは悪い人たちです、それで、私は、あなたたちと、これから、神様について、ほんの少しだけ、お話したいと思います」


 ぎょろっと目をむいた石松は、そいつの顔の前に、さざえの様な、ごついげんこつを突き出し、ぐるぐる廻して見せた。 けげんそうに見詰めるそいつの前に、中指と人差し指を割って、つめの割れたれた、大きな親指が、にゅっと突き出しているではないか。 オメコのシンボルマークだ!黒人青年の両目が、眼前の、オメコげんこつを注視しているうち、ほおがピクピクしだし、両目が険しく寄って来ていた。 


「お前、これと、少しだけ、お話したいんだろう」


 わざと相手の下手糞な日本語を真似て、石松が言うと、げんこつの意味を充分理解した青年は、


「悪魔め! あなた、デビルです」


 とわめき、後は、汚ない英語を、ありったけ吐き散らしながら、石松めがけて、飛び掛かって行った。 


「この黒んぼ野郎、ふざけやがって」


 四つに組んだまま、地下鉄の床を、所狭しと転げ廻り、つかみ合った二匹の猛獣が近寄ると、悲鳴があがり、座席に立ち上り、目を釘付けにし、次の車両に逃げ込んで行く乗客たち。 


「ピー、ピー、ピー」


 と呼び子が、離れた車両から近づいて来た。

 
「お巡りさんが来たわ、大変、早く、お巡りさん止めて」


「何、この人たち」


 呼び子を吹き鳴して駆け込んで来たのは、キラキラしたバッチを、たくさん付けた、赤いベレー帽をかぶった少年たちではないか。 ベレーとネッカチーフはお揃いだが、上下黒のもんペ、いや忍者スタイル。 白シャツに、だぶだぶの乗馬ズボンのもう一人。 自衛隊スタイルも居る。 手には、何とヌンチャクや、鉄製の棍棒、鎖を持ち、勇敢にも、プロレス真最中に抱き付き、引っぺがさんと、すごいどたばた騒ぎとなり、車両前後には野次馬の麻が一杯。 


「ユー、クレージーヤクザ、ファックユー」


 息が切れ、ぼろぼろで、瀕死の態(てい)になった黒人青年を、三少年がやっと、ドアーに押し付けた。

 
 電車は、再度地上に出て、ブルックリンの郊外を走っている。 外は、新緑が目にしみて美しい。 駅に入ったので、突き出されながらも、わめき散らしている黒人に向って、苺たち三人が、窓越しに、あかんベーと、可愛い舌を出している。 怒って、窓に、ペっペっとつばを吐き掛けると、やつは、大またで去って行った。 


 赤い揃いのベレー帽の三人は、地下鉄防犯挺身少年隊。 通称、ガーディアン・エンジェルスと呼ばれ、善男善女を地下鉄犯罪から少しでも守ろうと云う、けなげな少年たちである。 よくアメリカの地方小都市などにある自警団だ。 事が起こっても、保安官だけじゃあ手に負えなくなると、自前のの武器を手に、凶悪犯人の山狩りなどを手伝ったり、おらが村は、おらたちの手で守るべえ精神の持ち主だが、左翼や学生デモに殴り込んだりもする。

 

 田舎は、よそ者を嫌うから、高じると、かえって危険な存在になる。 例の、白い頭巾をかぶった、白人優位排他集団、KKKもそうだ。 ガーディアン・エンジェルスは、シテーのポリスだけでは、手に負えなくなった、地下鉄犯罪の増加から、一般庶民を守ろうと云う、勇ましい、十五、六歳の、プエルトリカンや黒人の貧乏少年団。 だが警察は迷惑涙。 素人の出る幕じゃあねえ、もしか、拳銃を持った凶悪犯にやられるんじゃあねえかと、解散要求でいつも、もめているのだが、少年団側には、大衆の絶対的支持がある。

 

 そりゃあそうだ、現実に、目の前で襲われてても、周囲は、見て見ぬ振りのアメリカでは、ガキでもたよりになるならお願いするしかない。 




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