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-CONCEPT- OLD記事

モーターサイクル・アンド・ガール

MOTOR CYCLE AND GIRL

 

1978

 

30 x 30 x 15  cm

 

カードボード・アクリル・ポリエステル樹脂

 

ニューヨークの次郎長

 

第37回  地下鉄で大騒ぎ

 

「自分の名前と住所だ、フランク、ホワイトストリート、ダニエル、グランドストリート、次郎長、グリーンストリートってな具合よ、何でも、これを描きまくってるガキはプエルトリカンや黒人で、貧しくて、キャンバスや、絵具が買えねえから、ペンキ屋で、スプレーや太マジックをかっばらい、夜の操車場に集まって、芸術制作さ、職がないし、喰えないから、人様のものをいただくんだ、悪いのは市長や、アメリカ大統領だと、罪の意識なんて、みじんも無い、親が、そうしろと教え込むんだから、もうスラムの連中は全員強盗だと思やあ間違いねえさ」


「まさか、良い人たちだって居るのでしょう」


「地下鉄の犯罪はすごいぞ、とうとう婦人警官がやられた、金のネックレスを引ったくって逃げたガキを、追い詰めたまではよかったが、ウォーキートーキーで、いくら呼んでも、パートナーのポリスがどこかで油を売ってて居なかったんだ。 逆に拳銃を奪われ、頭に二発お見舞いされ、無線機も紛失、市長は深刻顔でテレビで謝っていたが、ミッドナイトのブルックリンやブロンクスの地下鉄構内は危険が一杯、通勤時間に、端っこの車両で数人で強姦、変態、狂人が、ナイフやナタまで振り廻し、線路に突落したりで、もう手が付けられないんだ」


「私たち、まるで棺おけの中に座っているみたい」

「ねえ、帰ろうよ、芸術家が、こんな汚ないとこで死にたくないわ」

「警官増やせばいいじゃあない」

「なあ たこ目、この世界一の大都市に、金が無いんだ、消防夫だって、半分に減らしちまったんだぜ、地下鉄に乗る時、一番安全なのは、八車両中、真中の四車両目ぐらいに乗るんだ、車掌の近くだ、トップと最後尾の車両は、目が届かないから、ヤバイ事が一番多いんだよ、覚えときな」


 しばらく走ると辺りが一斉に、ぱっと明るくなった。 イースト・リバーに掛る、マンハッタンブリッジを通過中。

 
「わあ奇麗、たこ目、牡丹ちゃん、すごい眺めよ」


 河口が大きく大西洋に向って広がり、右に二本の、ワールド・トレード・センタービルを中心にウォールストリートの摩天楼街、海がそれを大きく囲み、水際がキラキラ輝き、正に、堅固(けんご)で巨大な一枚の岩板の上に築かれた、アルミとガラスと大理石と古いレンガの天に向ってそそり立つ一固のかたまり、バベルの塔だ。 ぐるりと一周するハイウェイに昆虫の様な車たち、警笛がここまで聞こえて来そうな明快さ。 左対岸はブルックリンの船着き場、ひと昔前、移民たちが、ここからマンハッタン島の摩天楼を眺め、よし、俺もひと稼ぎしてやるぞと、野望に胸を張り、こぶしで、どんどん殴って騒いでいた処。 この天気だ、正面ずうっと海の遠方に、自由の女神が、はっきり姿を見せ、それに向って、見物客を満載した白い船が、真っすぐ進んでいる。 青空を、ジェット旅客機が白い尾を引いて横切れば、もう完全に絵葉書。

 


「泣けるじゃあない、この景色、私、やるわ、このニューヨークで、がんがん絵を描きまくって、大物と呼ばれなきゃ、久々に大型女流新人登場、お名前は苺ちゃん、ニューヨークタイムズ紙のアート欄に、写真入りで出て、ああ、体がむずがゆくなって来ちゃった、ずいんとしびれて来ちゃうじゃあない、ねえたこ目ったら、何とか云ったら」


「痛い、私の大切な髪の毛、引っ張らないでよ、犯罪映画のファースト・シーンを見てるみたい、ほら、昔、ウエストサイド・ストーリーの空中撮影シーンなんか、こうして見て、ヒント得たんじゃあないかしら」


「苺にたこ目、お聞きよ、夜景はもっと良いよ、去年のクリスマスの時見たビルの窓、百万個ぐらいに、全部明りが付いてるんだから、色電球なんかもあってさ、ホッカホカのターキーディナー喰ってやがんのさ、皆な、あの時、私は一銭も持っていなかった、全部、高下駄の久七親分に召し上げられちまってさ、その上、ブルックリンのはずれまで使いにやらされ、帰りは、寒い寒い夜でした」


「あんた苦労してんのねえ」


「いいのよ、今は清水の次郎長さんにくっついてんだから、今に久七のやつ、こっぴどい目に会わせてやるから見てて」


「あらつまんない、もうお終い」


 橋を波り切った電車は、ゴーッと耳鳴りを残して地下に潜って行った。 
 

 先刻(さっき)、つま先でドアーをこじ開け、石松たちと一緒の車両に乗って来た、例の背広の黒人青年は、興味深げに一行を観察していたが、たまらなくなったのか、揉手で近づいて来た。


「あの、あなたたち、日本のやくざでしょう、私、知ってます」


「何だいこいつ」


 鮫助が、びっくりして顔をあげた。 



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