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-CONCEPT- OLD記事

ダラス旅行

Trip to Dallas


1983


280.5 x 838  cm

 

アクリル・キャンバス

 

ニューヨークの次郎長

 

第32回  コニーアイランド作戦

 

 

 

「あんたどうするのよ」


「俺、心配いらねえよ、俺はこれから、どかーっと、すげえことやるんだ、スケッチブックなんて糞紙みてえに見えて来たよ、今や俺は、気持だけは、アメリカンアートのトップを切ってるって感じなんだ」


「気持だけじゃあ、このニューヨークじゃあ、コーヒ一杯も飲めませんよだ、一歩一歩よ、鬼吉さん」


「一歩一歩、一生、一歩一歩か、英語で、インチ・バイ・インチ、って云うんだろう、一攫千金、この夢が世界中の飢えたハイエナ野郎を、ニューヨークに集めさせてるんだぜ、ブロードウェイのミュージカル見たか、あそこでヒットさせ、スターになろうと、下積み野郎が、うじゃうじゃのたうってるんだぜ、ロックだって、バレーだって、ダンスだって、絵だってそうさ、よーく周りを見渡して、これならいける、と云うアイディアを、練りに練り、一ぱつ勝負するんだ、当たりゃあスーパーさ、駄目なら出直しをするんだ、けられた時に泣くやつは落伍者、自殺したり、気が変になったりしたやつ、俺はたくさん知ってるぜ、落ち目は誰にだって、いつかはやって来るけれど、その時、立ち直るために、エネルギーがいるんだよ、友人だってさ、落ち目の時にでも付き合ってくれるやつこそ、本当の友人さ、しかし落ち目のやつに金、貸すやつは、この国にはいねえよ、見向きもされねえし、負け犬ってえ言葉あるだろう、その時、爪から血い出しても、もう一度、崖をはい登るんだ、アメリカのやつらは、悪い事しても、絶対、アイ・アム・ソーリー、って云わないからな、息子が、十人、人殺ししても、その親父は、自分の息子が悪いんじゃあねえ、と云い続けてるし、ニクソンだって、大統領の椅子、追っ払われても、チャンスがあれば、シャシャリ出てきて、まだまだやる気十分、ウォーターゲートの時は、ショックで、入院したほど悪くなったが、今じゃあ、立ち直って、びんびん、タフだよ政治家は、ケネディーだって、ロックフェラーだって、ご先祖様はなにやって身代築いたかってんだ、対手(あいて)の石油スタンド、やっつけるのに、どうぞ、そこをお引き取りくださいなんて柔(やわ)な手、使ったかねえ、南部に行って見ろ、一番気を付けなきゃならねえのが、牧師と警官だぜ、やつら、ぐるで弱いものいじめをするんだ。

  黒人のフットボール選手がハイウェイパトロールといざこざの末、留置場で、頭、殴られて死んじまっても、 つい、先週の話よ、誰も、証しをたてられねえんだ、この国は、金と権力を持っているやつだけの国さ、あとは全部ごみさ、綺麗ごと云ったって、一生貧乏暮らし、最後になって、ああ、一生いい事なんかなかったなー、って後悔しながら死ぬのが関の山さ、だから皆、民族同士、団結してるんだ、ジプシーに出来る事といやあ、かっぱらい、あたり屋、いかさま占い、それしかなければ、とことんやらなければ飢え死にさ、最初から悲劇、しょいこんじまった民族がたくさん、このニューヨークに集まってるんだ、帰る国のあるのは、日本人ぐらいのもんよ」


「鬼吉さん、顔、真っ赤よ、興奮しないで」


「もう少し云わせろ、まあいいや、無駄だべ」


「随分立派なことを、のたまわってくれたあじゃない鬼吉さん、ところで、あんたも、屋上テント座敷のお世話になるんでしょう、不潔な豚のくせに」


「俺は、立たなかったんだよ」


どっと、笑いが石松たちのすき焼きテーブルから起こった。 


「そりゃあいい、鬼吉、こっちに来て、少し飲め屋、喉が渇いたろう」


苺は、スケッチブックを抱えたまま、きょとんとして、突っ立ったままだった。 


「ところで鶴吉兄い、さっきの仕事の話って絵のを、英語のさっぱり解らねえ、この石松にも教えてやってくんろ」


「ああ、丁度いい、親分も聞いてください、ガリレオ一家のやつ、俺たちに、海岸に、お化け屋敷を作ってくれ、と云ってるんで」


「何だって、お化け屋敷を、海の家にデモして、来る客を脅かそうっていうのかい」


「その海岸は、ここニューヨークから地下鉄でわずか小一時間足らず、遊園地つき海水浴場で、名を、コニーアイランドっていうんです、夏はすごい人出で、まあ、江ノ島が芋洗い海水浴場だとすれば、この遊園地は、貧乏人の大集団が、わんさと押しかけ、もうギャーギャーピーピー、一度下見に、お天気のいい日にでも御輿(みこし)を上げてくだせえ、六月の海開きの目玉商品に、日本のスタイルのお化け屋敷をぶっつけようと、ジョーたちのボスの発案で、ジョーはこのロフトの大芸術展に感心して、我々がチャイナタウンに言っている間に、電話でボスと相談、決めちゃったらしいんで」


「するってえと、そのコニー何とかは、やつらの縄張りか」

「七十年前からあった、アメリカでも有名な遊園地で、昔は、それこそ、シルクハットの紳士に、パラソル、ラッカサンスカートの淑女が、優雅に桟橋の上から夕日など、眺めた、散歩海岸だったんですが、移民軍団に荒らされ、下品になっちまって、高級な人種は誰も寄り付きません」


「ヘー、今度は、その下品な連中相手に、度肝を抜かさなきゃあならねえのか」


「へえ、やつら、ちょっとやそっとじゃあ、びくともしませんからねえ、タフですから、本物のマシンガンでもぶっ放してやらないと目が覚めねえような、お頭の出来が違うんでしょうねえ」


「親分、この石松に、腕を振わしてくだせえ、石松の初仕事か、アメリカは、テンポが早くていいや」


「よし石松、存分にぶつかって見ろ、後のしりぬぐいは、俺が引き受ける、俺たちの後には、大日本政府が控えてるんだ、大丈夫よ」


「親分、政府や領事館は関係ないですよ、そんな方面に、今度の仕事が、下手に知れたらとんだやぶ蛇です、気を付けてください、旅行者の観光ビザや学生ビザしか持っていない連中が、もし働いている現場を、移民局の検査官に踏み込まれでもしたら、全員逮捕、強制送還間違いなし」


「ふうーん、そりゃあ気を付けねえとな、とくに高下駄一家にかぎ付けられねえように、すだれの猿のやり方はどぎついからな、 ところで屋上のテント座敷は、繁盛してんのか」

                  
「鮫助が降りて来ないところを見ると、やっこさん、お泊りでしょう、今晩、まだ蚊が出ねえからいいけれど」

「石、お前、屋上に行かなくってもいいのか」


「冗談云っちゃあいけませんや親分、ここはアメリカです、大和なでしこにゃ、手を付けねえ覚悟で来てますから」



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