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-CONCEPT- OLD記事

源氏シリーズ 1

 

Genji Series1

 

1982

 

56 × 72cm

 

フェルトペン・インク・プラスティック・紙

 

ニューヨークの次郎長

第27回  チャイナタウンの石松

 近づいて来た石松を、大政は下から見上げたが、何の反応も示さなかった。 鶴は坐って湯飲み茶碗を、割りばしでたたいて、音の余韻でも聞いているのか、耳をあて、にやにやしている、猿は窓の外を見詰めたっきりだ。 三度笠を取り、その前に土下座した石松は、両手を床につき、

「政兄い、鶴兄い、石松、はるばる日本から、ただ今到着いたしやした、しばらく振りに見る兄貴分のお姿、お元気らしく、なによりでござんす、手前石松、これからは、初めての外国生活、色色面倒を、お掛けしなければならねえことばかりと思いやすが、なにぶん、よろしくお引立ての程、お願い申しやす」

「おう、石か、元気かよう」

 大政の声は、何の感動も示さない。 鶴は、きょとんと、茶碗にはしを持ったまま、石を見つめているだけ。 鈍い石松も、やっと、事態が、普通じゃあない、と悟った時、次郎長が、たまり兼ねて、

「石、連中は、あと二、三時間で、正気に戻るんだ、こっちに来て、一杯やって、待ってようじゃあねえか、残りものだが、高級品だ、石、まあ飲め、懐かしいなあ、細かいことは、あとで説明してやる、こっちがお花だ、鶴青の女房、美人だろう、日本語だって、三年でペらぺらよ、これが梅次に、玉四郎、あとは皆な、パーティーで薬飲んじゃって、あのざまだ、昨夜は、大パーティーがあったのよ、このロフトの飾り物を見ろ、一週問で仕上げ、ニューヨークの、お偉方を招いて、どんちゃんパーティーさ、あそこのゴリラ女に一服盛られ、全員グロッキー、高下駄の久七のやりそうなことだ。 祝い酒だと、女に持たせてよこし、全員に飲ませやがった、ふぐの毒じゃあなかったのが幸いよ、それも地獄じゃあなく、極楽の方に行っちまってるらしい、俺は、しらふで、十二時間、ばっちりつき合わされたんだぜ」

「へえー、そんな事になってたんで、それにしても、この酒、シーバスにレミー、ナポレオンが、着いてすぐ、こんな高級なのが飲めるとは、さすがニューヨーク、まあ地球の裏側まで来ちまってるんだ、腰を落着けて、ちびちび行きましょうや、兄貴たちも、そのうち覚めるでしょう、何飲んだんだか知らねえが、極楽行きとは上等ですねえ」

「鶴、やっと戻ったか、こっちに来い、話がある」

「へえ、話は全部、向うで聞こえて、知ってます」

「知ってて何で答えねえ」

「御勘弁を、口ばかりぱくぱくしちまって、声が出なかったんで」

「それで、にやにやしてたのか、この野郎」

 チャイナタウンでのいきさつを聞いた鶴吉は

「親分、あの晩、賭場でのかちっぷりがあまりにすごかったんで、連中、いちゃもんを付けてるんです、博打にかけちゃ玄人の、大親分、清水の次郎長だったと、後で解って、今度のことに」

「あの時は、勝った後で、一人、十ドルずつチップをやったはずだぜ、賭場のお客に、素人も玄人もねえだろう、もっとも、パチプロってえのが、日本にあったっけなあ」

「とにかく、行ってみないことには」

「よーし、石、丁度いいところだ、そのままの格好でついて来い」

 スブリング・フラワーの奥のドアーを開けると、人質に取られた苺が、そのままの化粧で、もやしそばを喰っているではないか。ドアーに二人、テーブルに一人、そいつが鶴に下手な英語で喋った。

「親分、勝った四千ドル、返せ、って云ってます、ここの賭場では、素人さんだけ、プロは駄目だそうで」

「あの金は、全部、パーティーの準備に使っちまったじゃねえか、客の勝った金を、後になって取り戻そうなんて聞いたことがねえ、ノー、だったらどうする気だ」

「金は、この鶴が、何とか作ります、このチャイナタウンでのごたごたは、やつ等の組織は、でかいから、面倒なことになりますよ、それに苺を取られちゃいますよ」

「博打で勝った金は、返せねえ、と云ってやれ」

「親分、やっと、華華しくスタートしたばっかりですよ、これからってえ男が百万足らずの金で、つまずいちゃあ、人気にかかわりまさあ、久七たちが知ったら、手を打って喜びますぜ、今、敵を作っちゃあ、元も子も失くしちゃいます、俺たちの努力も水の泡、イミグレに見付けられるし、日本領事館だって、事が大きく、出入りにでもなりゃあ、たちまち、俺たち全員、ふん捕まり、強制送還、逃げ隠れ出来るところなんて、目立つ東洋人にはありませんぜ、どうか、この場は、あっしに任しておくんなせえ」

 


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