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-CONCEPT- OLD記事

オペラ・デ・パリ

 

 

OPERA DE PARIS

1974

30 X 40 cm

アクリル、 キャンバス

 

 

 

ニューヨークの次郎長

第26回  チャイナタウンの石松


 ここ、スプリング・フラワーは、喫茶店でも、完全なチャイナスタイルで、フルーツポンチや、バナナパフェなどの代り、キッチンから、どでかいせいろが湯気を立てながら運ばれ、カウンターの上で、蒸し上ったもちや重曹パンを取り出し、大包丁で三角に切り、近所のおばさんや、子供が、おやつにどんどん買って行く。 テーブルで、何か注文しようとも、メニューは全部、壁の、たんざく形の紙に、漢字で書かれてあり、彼らは誰も読めない。 一ドル五十三セントを、一元、五毛、三里、とある。 とにかく、漢字から想像して、これだと狙いをつけ注文。 とんでもない代物が出て来て全然はしがつけられなかったり。 一番無難なのが、オンライス、御飯の上にチャーシューや、野菜のいためたのをぶっかけた、日本のどんぶり物、ここでは、どんぶりの代りに皿だが、これなら何とかいける。 店員もお客のほとんどが、チャイニーズ、これがニューヨークのど真ん中にあるのだ。 近所の新聞スタンドの本も漢字、お菓子、たばこも全部チャイナ製、しかも、ホンコン、タイワンのお金まで使えるんだから。 こんなとこだから、博打をやろうと、不法移民を地下に隠そうと、その地下室だが、ドアー又ドアーのその奥なんぞと来たら、誰も入ったことのない部屋だってあるだろう、死体の一つや二つの隠し場所にはことかかない。 ニューヨーク警察でも絶対に目の届かない奥の奥がある。 


 縄張り争いも、ホンコン系、タイワン系、サン・フランシスコ系、その他が入り乱れ、壮烈を極め、昼間、ピストルで、チンピラ同士の撃ち合いなど、テレビ・ニュースで慣れっこ、営業中のレストラン内で追い詰められ、射殺されたり、朝、事務所に来て見たら、誰かが椅子に、後手に縛られ殺され、そいつの首は、ニューヨークには見当たらず、隣の州の野っ原に捨ててあったとか。 


 ニュース解説者も、
「とにかく、これは、チャイナタウンの出来事だから」
 が決り文句。 


「親分、大変だ」


 まだ、ぼけ顔の忠助を引っ張って、梅次は血相を変え、駆け込んで来た。 


「苺が、さらわれた、金を持って来なければ帰さねえと」


「詳しく云ってみろ」


「何を云ってるんだか、やつらの言葉が、さっぱり解らないんで、何か喰おうと、店に入ったとたん、ちんぴらが来て、苺だけ奥に連れて行っちまったんで、金を返せ、ばかり云ってまして」


「それだけか、頼りにならねえなあ、苺はどんな風だった」 


「忠助も苺も、店に入り、注文した頃は、まだ頭がぼけていて、肉まん見て、怖い怖いと云ったかと思うと、笑い出したり、そこへやせぎすの、日の細い恐ろしい顔をしたやつが来て、苺だけ奥の部屋に連れて行っちまったんで、今頃苺ちゃん、裸にひんむかれて、逆さづり、むち打ちの責め苦にあっているかも」


「馬鹿野郎、脅かすな、鶴を呼ペ」


 しかし、ロフトの片隅の一団の中に混ざって、鶴吉も日なたぼっこの真最中、呼んでもこっちを向いて、にやにやしているばかり。 


「私が掛合って来ましょうか、鶴さんは、まだ二、三時間は駄目でしょう」


 何でもない事を一人が喋る度に、どっと笑い、一瞬、現実に戻ったかに見えるが、すぐ別世界に入ってしまう。 猿は、同じ姿勢であぐらをかき、転がっている牡丹が、時時、シーツからのぞかす顔ときたひにゃ、間抜けたお化け。 大政は、依然、寝転がったまま、酒の、たまりを、かにの足でつっついているし、他の連中も同様。 げらげら笑いだけが静まり返ったロフトに響く。 こんな緊急時に、誰も頼りにならない。 鎮痛な面持ちの次郎長の目に、その一画だけは、狂人病院に映った。 


「誰か下で呼んでいるぞ」


 親分親分と、下から怒鳴っているやつがいる。 窓から見下すと、見慣れた三度笠が、トラックやタクシーの間に、見え隠れしているではないか。 


「やや、兄貴だ」


「とうとう来やがったか、石松に違えねえ、梅次、下りて行って、カギを開けろ」


 梅次が、犬ころのように素っ飛んで行くと、何か、大荷物でもしょって来たのか、どたばたしながら、懐かしい、がらがら声が近づいて来た。 次郎長も、思わず、ロフトの入口まで迎えに出た。 


「石」


「親分、しばらく振りでござんす」


「お前も、三度笠、かっぱに振分け荷物、上三尺に草経履き、道中差しとは、俺様の真似しやがったな、この馬鹿野郎、しかし、遅かったなあ、すぐ来ると思っていたんだが、金でもたんまりこさえてたのか」


「へえ、まあ、送別会が、あちこちでありやして」


「で、どの位、金持って来た」


「へえ、その、零で」


 と石松は、指を丸めて、次郎長に見せた。

 
「無一文だって、それにしちゃあ、よく税関や、タクシー代、あったなあ」


「飛行機の中で、有金、と云ったって、たった二、三万円ですが、全部飲んでしまい、ケネディー空港からは、ヒッチハイクでここまで、親指あげたら、すぐ乗せてくれました、この格好を、侍だ侍だと云って開かねえ、家に遊びに来てくれと、へえ、これが、電話番号で」


「ふう-ん、まあ、石松、お前らしいや、どうだい、アメリカ上陸第一歩の御感想は、え、驚いたろう、さすがのお前も」


「別に、着いてすぐ親分に会って、その、あの、大政どんや、鶴兄いは、さぞ元気にやっていらっしゃるんでしょうねえ」


「ああ、皆な元気だよ、元気も元気、ぴんぴんして、、あそこに固まってらあ」


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