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-CONCEPT- OLD記事

スーパーマンから脱出

 

 

 

スーパーマンから脱出
1979
50 X 30 X 50 cm
カードボード・ポリエステル樹脂

 

 

ニューヨークの次郎長

第25回  チャイナタウンの石松


 キャナル通りの、ブロードウエイを挟んだ東側にある、大チャイナタウン。 十年前に較べ、三十倍に膨れ上がったこの街。 清潔度、不潔度お構いなしに、借手の無いおんぼろ部屋に、次から次と住み込み、最後には、ビル全体を買い取ってしまい、英語に代って、漢字の看板が、ビルの壁を埋め尽くしてしまう。 例えば、金冠平価市場。 地道薬材。 海味公司。 天泥減肥化粧屋、これは、ビューティー・サロンのこと、など。 


 十年前の大量のガキは、今や、タウンの担い手、英語を話せる大切な労働資源である。 
職種の多さにもびっくりする、タウンの中心街、モッツ通りに集まる観光客相手の、レストラン、お土産屋の数など、ちょっとやそっとでは数え切れたものではない、ここで観光客とは、海を渡って来た外人を含むチャイニーズ以外の人種全部のことで、四千年の歴史を持つ文化の極端な違いが、この街を、唯歩くだけでも、わくわくさせる魅力充分で、金びかの仏像から、ゴム草履、うちわ、耳かき、に至るすべてがお土産的価値がある。 風呂敷一枚を、交通のはげしい道路に、早朝から、おっ広げ、ハンケチ、財布、ひも、花火まで並べ、一ドル、二ドル、の数字英語だけで小銭を稼ぐ中年女性。 食事は無論その場の道路で、誰が見てようと、お構いなく立喰い。 

 この行商人種相手に、湯気の立った暖かい朝飯を売る若者。 道路一杯に、しゃしゃり出て、売りまくられる、アメリカ人が見たこともない野菜、魚。 先頃まで、セントラルパークの散歩中、たくさん拾えたぎんなんなどは、ガキの小遣い嫁ぎのよい対象で、今は一粒も無い。 ビルの地下で、もやし造りに成功した成金も居れば豆腐、うどん、あつ揚げ、揚げボールから鯉の生簀まで地下ロフトにあり、生産され、どんどん市場に送り出される。 その上タイワン、中国からの輸入品の、朝鮮にんじん、わけのわからない缶詰類、ピータンに至るまで、目のくらむような、種類の多さ。 


 日本語をしゃべる、第一食品公司と書いた、スーパーの親爺は、どこから金を持って来たのか、その一画、十軒ほどの店舗を全部買い占め、四つ角に、緑のかわら屋根、朱の柱に竜の浮き彫りを、めちゃくちゃにくっ付けた四階建の大銀行をおっ建ててしまったのも十年たらずの間で、はな垂れ小僧だった、五、六人の子供たちは、今や銀行の重要ポストをあずかり、きちっと背広を着、高級車を乗り廻し、頑張っているからびっくりだ。 


 クリスチャン・ディオールだろうが、サンローランだろうが、カルバン・クラインだろうが、ポロ、カルダン、ラコステ、バンダービッチ、ジョーダッシュ、サッスーン。 衣服なら何でも、最近、雨後の竹の子の如く出来ている、この辺のロフト工場製品だ。 何せ、毎朝、そこに吸い込まれる、チャイニーズの中年女性の数、吐き出される製品、運ぶトラックの込み方。 勿論、同時に吐き出された大量のごみが通りをふさぎ、深夜のプライべ-ト清掃車が、傍若無人に、轟音を立て、運び去る作業の繰り返しの毎日。 騒がしくて頭に来た地元の若者が、ごみに放火、あわや大火になりそうな勢いで、火の手が上っても、この街は石と鉄で出来ているから、ビルの壁を黒焦げにする程度。 消防車は、けたたましいサイレンと共に十台近く集り、とんだ深夜のスペクタキュラーな光景と、近所は、窓から首を出して見物、翌朝のひどさは格別、黒焦げの布切れの山が、水浸しで、足の踏み場もない有様、街灯の二、三本は、いとも簡単にへし折られ、道をふさいでいる。 

 

 放火はビルに及ぶこともある。 折角、汗水垂らし、商店街を作り、肉、果物、魚から始まって、洋服、本、美容院まで揃ったが、ある晩出火、丸焼け。 それを消す消防士の乱暴さは世界一、大男たちは、手に手に柄の長いまさかりを担ぎ、とび込むと、相手が、鉄のドアーだろうが、人が寝ていようが、たたき破り、ホースを抱えた五、六人が、どどっと、枕元を走り抜け、寝ぼけまなこをこすっている暇に、隣のビルにとび移っている。 ガス、電線などは、ずたずたにされ、火は消してもらったが、後は全く、使いものにならない。 


 原因不明の怪火は、ニューヨークでは常識、狙われたやつは、災難この上ないが、必ず、何がしかの理由が、変なところに隠されている。 


 ぼろロフトだが、安い家賃につられ、一年がかりで、ぴかぴかにしたとたん、ビル全体が売りに出されてしまった。 各階の住人全員、一致団結して居坐りを続けたが、ある夜、漏電で大火全焼。 命からがら、逃げ出すのがやっと、煙に巻かれ、最上階の住人は、半年たっても病院から出られない有様。 大家は、よかったよかった、と保険金を懐に、次の金もうけをたくらんでいるのでしょう。 

 

 さて、チャイナタウンを目指した、ふらふら三人組は、やっと喫茶店、スプリング・フラワーのカウンターまで到着、ハウス特製の肉まん、とコーヒーを注文したまではよかったが、肉まんはバスケットボール大に見えるし、チン・トン・シャンの音楽も変てこに聞こえ、電話が鳴れば、警察に通報されていると勘違い、その上、店員の顔は皆、スターウォーズのお化けに見え、そこでも三人、しっかり手を握り合い、離せない有様。 気が付くと、梅次の背をたたいて、何か言っている。 振り向くと、一見やくざ風、サングラスのだぶだぶ背広男が、しきりに奥を指さしていた。

 


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