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-CONCEPT- OLD記事

レイサー

 

 

Racer

 

1977年

 

10 x 40 x 12 cm

 

カードボード・ポリエステル樹脂

 

 

 

ニューヨークの次郎長

第24回  次郎長一家売出す

 鶴吉は経験者らしく、何とか楽しいトリップに自分を持って行こうと努力してるみたいだ。 音楽をムード調に切替えたり、女性の狂態を、にやにやしてのぞき込んだり、隅の地獄コーナーに入り、きゃー、と叫んで、逃げ出して来たり。
 だが、あと数時間すると、薬の効き目の、最高潮時が来るはずだ。 これは、鶴吉だけが知っている極楽。 完全に記憶喪失、意識不明の時間帯のはず。 
 それとも知らず、猿と鮫助は、波乗りが高じて、とうとう着てる物を、全部取ってしまった。 むっちり熟れ切った白い肉体。 毎日、うまいものばかり、たらふく頂戴しているに違いない。 胸から腰にかけての、すごい凸凹、肉と肉がぎゅうぎゅう喰い込み合い、尽きない欲望を秘めた、真黒な大森林の中央に、どっかりと在る洞窟。 効いている忠助の目には、それさえも、皿に山盛りにした、巨大な肉団子にしか見えなくなっていた。 
 シャワーにも飽きた鬼吉は、ベッドに坐っていたが、


「親分、とうとうスペインにやって来ましたねえ、見てください、真白い壁、紺碧の青空、あこがれの国、さあプラド美術館に行って、ゴヤの絵を見なけりゃあ、カルロス四世の肖像、それに裸体のマヤ、あれは大傑作だぞ」


 薄汚れた白いロフトの壁、一度も掃除をしたことのない、ほこりの積った窓を見つめて、鬼吉は、しきりにスペインの青空だ、白い家だと、独り言を云い続けている。 
大政は大政で、使い捨てた、ホーク、皿、喰い残しの投げ込まれた、大きなポリバケツをのぞき込み、


「わあー、ピンクのお花畠だ、奇麗だなあー」


 と一人で歓声を上げている。 


 とうとう満潮時になったようだ。 


 太った猿と鮫は、完全に抱き付き合い、手足を絡ませ合ってはいるが、一体何をしているのか、二人共、解っていないらしい。 忠助は、それでもまだ、同じ場所に坐ったまま、身動き一つせず、二人から目を離せられない。 牡丹灯籠は、苺に挑みかかり、猛烈に愛撫し始めた、苺のちち、腹、股に、口唇と舌が蛇のようにはいずり廻り、吸いまくっている、手足の指までくねらせ、絡み合わせ、なでたりこすったり。 大政には、こんな千金に価する、一生拝めるかどうかの光景が、悲しいかな、どうしても、ただの太いスパゲッティーにしか見えないのだ。 牡丹の派手な息使いに、苺も一生懸命合せようと、溜息を発したり、糞詰りのような、うめきを漏らしていがるが、二人の目は、全然焦点があっていない上、無表情、いや筋肉の緩みっぱなしの馬鹿顔の上に、まつ毛が、おでこに行ったり、大きくずれて描かれた口紅、たぬき顔よろしく、青紫の光ったアイシャドーが、桁はずれに、目を大きく、隈取っているので、もう化物以上のこっけいさである。 疲れを知らない、異常にしつこい愛撫の連続で、さすがの女男、苺の堅い肉体も、ほぐれはじめ、発する音色も、色っぽく聞こえはじめたが、時々、びっくりするような、げらげら高笑いに、同じ人間からかと、疑いたくなる。 


「こりやあ、恐しい薬だなあ」


 ロフトの隅の電球のスイッチのひもを、引っばっては離す作業を、何時間もしてるやつ。 明日、仕事があるから帰ると云ったまではよいが、三階の階段の上に立ったまま、恐怖で、一歩も降りられないやつ。 帰ろうと、地下鉄に乗ったはよいが、自分がどこに居るのか解らなくなり、電話で、自分は今どこに居るのか聞いてるやつ。 一旦近所の自宅に帰ったが、女房に気持ち悪がられ、戻って釆たやつ。 家の玄閑の前を、行ったり来たり、どうしても自分の家に入ることが出来ないやつ。 
 猿が、体を離し、トイレに向って、泳ぐような格好で進んで行ったが、ドアーを開けると、


「きゃあー、キャベツ畠じゃあない、駄目だ、これじゃあ出来ない」


 と云って引返して来る、同じ状態を、十数回、繰り返していたが、仰向けに寝たまま、とうとう放尿してしまった。 


「ナイヤガラの滝だ、すげえすげえ」


 忠助が始めて大声で叫んだ。 鮫の目にも、大森林の中央洞窟から、大境水が昇るのが解った。 鶴吉は、女房のお花を、空いている蚕棚に誘うと、おっばじめ出していた。 次郎長に後でしゃべったところによると、女体が、大きくなったり、小さくなったり、ゴム人形のように、自分の思うままの形になり、金髪だったのが、黒や赤に変り、すごいんだと云う。 まるで忍術を掛けているみたいだと。 


「こりゃあ便利な薬だよ」

 

 やっと朝が来た。 朝の光の当っている床が、その部分だけ、輝いて、仏様でもそこに居るようだ。 体が冷えて来たんだろう、皆な、なんとなくそこに固まって、こぼれた昨夜の酒を、喰い残しのかにのはさみで、つっついては、笑い転げているのを、次郎長は、残ったはまぐりで、まともな子分たちのため、スープを作ってやりながら眺めていた。 


「あー、アメリカの朝飯食べたいわ、私、ハンバーグとコーヒー買ってくる」


「梅次、お前飲んでないんだ、苺に付いて行ってやんな」


次郎長に云われ、梅次は、怖くて階段を降りられないでいる苺の手を引いてやらなければならなかった。 


「その顔、何とかしてくれょ、化粧落すとか、俺恥かしいよ」


「うふふふふ、そんな変、いいじゃあないの」

           
「わあー、まぶしい、でもすごい人ね、今、朝でしょう、一般大衆は、こんなに早くから働くの」


 彼等は充分睡眠をとり、女性はすでに、ばっちり厚化粧で、足早に、オフィスに向っている。 


「わあー、この人たち、皆な顔が無い、のっぺら坊よ、気持ち悪い」


 一緒について来た忠助も、氷の上でも歩いてる様に、おそるおそる足を前に出していた、三人はお互いに手をしっかり握り合い、病人の一団のように、チャイナタウンに向かって行った。 


「この薬はすばらしいな、明日の事、俺、何にも考えられないんだ、今のフィーリングだけしか頭にない、すごい幸福だよ、俺、醒めたくない、もっとあるなら飲みたい、あと何時間効いてんのかなあ、うわあ、すげえ、今すれ違ったチャイニーズ、顔が、つぶしたかばみてえ、梅次、お前の顔も、わあー怖え」



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