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-CONCEPT- OLD記事

バスハウス オブ ザ フローティングワールド

 

 

Bathhouse of the floating world

1981

Card boad

35 X 35 X 46 cm

 

 

ニューヨークの次郎長

第23回  次郎長一家売出す

「やはり招待状を持っていたんで、それに、あっしは、彼等が、美街評論家の皆さんかと、勘違いしまして」


 中には、すでに蚕棚に登り、気持よさそうに居眠りしているのもいた。


 ハワイの大夕陽の壁画に向って、猿は、しきりに、水泳の格好よろしく、手を前後に、腰をくねくね、動かしていたが、ゆっくり、床に、はいつくばってしまい、太陽に向って水泳体操を繰り返している。 そこへ、鮫助と青鬼の忠助が、よろよろと近づき、並んで腰を下すと、じつと猿の水泳を見つめだした。
 こちらで四、五人が、環になって、阿波踊りの真最中、先頭は大政で、その目は何も見ていない、完全に自己陶酔に陥っているらしい。 リズムに全然乗っていないから、無重力下の宇宙飛行士の様な動きに見える。
 鬼吉は、自分の蚕棚ベッドに坐り、ボストンバッグから、何やら取出し、がちゃがちゃ組立てだしたが、それを見た次郎長は、慌てて鶴吉を呼んだ。 安物だが、22口径の、いっばつずつだが弾を込め、撃てる、本物のライフルだからびっくり。


「親分、急に取り上げちゃあまずいんです、こう薬が効いている時は、うまく、リードしてやらないと、荒れますからねえ」


「よう、鬼吉さん、今日はこんなものいらねえんだ、皆様楽しんでいらっしゃる、仕舞っときなよ、なあ」


 鬼書は素直にボストンバッグに返したが、しばらくすると、又、銃を取り出して、がちゃがちゃ始めるので、鶴は親分と顔を見合せた。


「弾だけ何とか隠しましょうよ」


と云うと、マッチ箱大の、弾の入った箱を取り上げ、持って行ってしまった。


「こりゃあ大変なことになった、何人残ってるんだ、あの酒を飲まなかったやつは」


「入口の受付二人に、あっしぐらいのものでしょう、ちきしょう、こうなったら、俺も、トリップの仲間入りさせてもらうぜ」


 と云うが早いか、鶴吉は、例の小さな紙切れを爪で千切り、奥の歯で、にちゃにちゃかみ出して云った。


「花子、あとは頼むぞ」


「イエス、ボス」


 金髪の花子は経験済みと見え、驚いた様子もなく、料理に使った包丁を、危険だと、さっさと片付けて行った。 次郎長は、これから、一体、どうなって行くのか、好奇心と心配が半分半分。


「おい、お前らだけは絶対に飲むな、お客様の中にも、飲んでいらっしゃる方が、大勢いるみたいだ、この次郎長一家のパーティーで、事故でも起ったら、世間の笑い者にされちまう、よく見張っていろ、薬は、十二時間、たっぷり、効いているんだとよ」


 LSD、この覚醒剤は、人間を一種のトリップ状態に陥れる作用をし、マリワナと同様、精神錯乱を起させる。 原因の一つに、視神経と、目の周囲の筋肉を麻痺させる作用をする。 早い話が、カメラの自動露出計が壊れ、絞りが効かなくなったのと同様で目に異常に光が入ってくるため、普段見慣れた風景でも、ぎらぎらと異様に輝き出し、驚愕的光景にしてしまい、このため、弱い人間は、パニック状態になり、窓から鳥になったつもりで飛び降りたり、警官に追われている脅迫観念に取り付かれたり、恐怖で、何時問も、一箇所から、身動きが出来なくなったりする。


「鮫さん、ハワイの海岸よね、ここ、真白な砂浜、奇麗ねえ、わあー、大波が来た、助けて、一緒に泳ぎましょうよ」


 じっとしていた鮫助も、猿に誘われ、横に寝そべり、手足を動かしてみると、その気分になり、黄色く塗った床が、本当に波打ちはじめ、自分も、一生懸命泳ぎ出した。


「わあー、大波よ、鮫さーん、波乗りね」


 忠助は、まだ顔を近づけたりしながら、じつと赤猿たちの泳ぎっぷりに目を向け、しゃがみ込んでいる。


「きゃあ、又、大きいのが来る」


 二人は手をつなぎ、波乗りに夢中になり、手足を、ゆっくり動かし続けている。
 鬼吉は、ライフルに飽きたのか、今度は、おかしいおかしい、効いてるのかなあ、とつぶやいて、シャワーを浴びに、トイレに何度も通っている、鶴吉が傍から、


「鬼や、今夜は、酒だけじゃあねえんだ、薬だよ、覚醒剤が混ぜてあったんだよ、いくらシャワーで頭冷やしたって、簡単には、元に戻らねえよ、醒めるまで、まだ何時間もあるから、出来るだけ、楽しいことを考えてな、そうすりゃあ、極楽に連れて行ってもらえるよ」


 苺と牡丹灯寵は、仲良く向い合って床にあぐらをかき、化粧道具を、全部並べ、鏡を片手に、メーキャップに忙しい。 時時、すごい嬌声をあげ転げ廻って笑いこけたかと思うと、又真顔に戻り、化粧に余念がないのだから、まゆ毛、口紅、ほお紅、アイシャドーなど、とんでもないところに行ってしまうので、二人の顔は化物のようになってしまい、それに気付き、又又大笑いを繰り返している始末。


「効いて来たぞ、効いて来たぞ、頭の後が、つーん、として来やがる」


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