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-CONCEPT- OLD記事

 

チェッカータクシー 

1975

キャンバス、アクリリック、コラージュ

60 X 65 cm

 

ニューヨークの次郎長

第18回   次郎長一家売出す

「今日、呼んだお客さんてえのは、そんな、偉い人ばっかりで」
「まあな、ロックフェラー家と云やあ、百年来、アメリカ美術の大スポンサーだ、ヨーロッパに行って、国宝級に大切にしていた、油絵、彫刻、骨董から、エジプトのミイラに至るまで、金に飽かして買いまくり、アメリカの美術館に寄付してきているんだ、それも、先祖代代、ロックフェラー家のボスは、全員それをやって来てるんだから、たいしたものよ、石油ってのは、それ程、金になるビジネスよ」
「そんな、えらいえらいさんが、こんな汚ねえところへ」
「今日のは、奨学金をあずかっている、事務所のボス連中だけだ、それだって、大金をあずかり、世界中から、俺様みてえな、将来有望な新人を、何百人も選んで、一年間のアメリカ留学させるのさ、それに、今日はミュジアム・モダン・アートからも、皆さん、来たいと返事があったし、大手画廊のディーラーや、日本に関心のある連中ばかりだ、日本語ぐらいは、軽く喋れるのが、いくらでもいるから、陰口たたきゃあ、すぐばれるから、大政、鮫助、豚熊、てめえら、今日は、なにも喋るな、今晩一晩だけ、唖になれ、それが一番無難だぜ。
日本人の方方だって、久七みてえな、がりがり亡者ばかりじやあねえ、品の良い人たちばかり、しかも、手に手に一本提げていらっしゃるに決ってる、それも、そこらの安ワインなんかじゃねえ、ジョニ黒、シーパス、ナポレオンがずらりと並ぶんだ、失礼があったら大変だぜ、何たって、招待状には、ブラックタイと書いといたからなあ」
「へえー、一体ブラックタイとは何のことで」
「男性はタキシード、女はイブニングドレスのことさ、安物のセビロに赤いネクタイなんざあ、下の下だ、全員、蝶ネクタイに、すその長いドレス、どうした大政、目を白黒させやがって、階段に、雑巾でもかけろ、頓馬め」
「しかし親分、わっちらは、そんな高級紳士服、持ってるやつは、一人もいませんぜ」
「だから俺が、前前から口をすっばくして、云ってるじゃねえか、敵がタキシードなら、こちとらは、裸が背広よ、このコンセプトでぶつからなけりやあ、太刀打ち出来ねえって、ステテコだって、足にはくからみっともねえんだ、絵具ぶっかけて、頭からあかぶっちまえって云ってるじゃあねえか、汚ねえジーパンなんかはきやがったら、ただじゃあ、済まさねえぞ」

嵐の前の静けさ。掃き清め、水をうった玄関先、いつでもおいでなさいと、客を待つ、静寂のひととき。爆発寸前のエネルギーが、あちこちに充満し、じつと我慢している一触即発の緊張感。次郎長は、この瞬間が大好きだ。日本では、何度も経験ずみ、才能、情熱、アイディア、有金、労力をたたき込み、時間に合わせようとあせり、もがき、切捨て、煮つめ、だが、オープニングの日時が徐々に迫り、遂に当日になる。天命を待つような、あきらめまじりの、又、絶大な期待にふくらんだ、発表初日の、開演時寸前。
さすがの次郎長も、喉がやけに渇き、たまらなくなって、用意してあった大切な酒から、一杯お先にいただいてしまった。
 パーティー擦れしているアメリカ人たちは、実に正確にやってくる。それもオープニング時間の五分ぐらい前に、入口に集まっているではないか。格好つけて、わざと遅らせて、いやいやどうも、なんてえのは他人の国のこと。
「六時開場」
 どどっと、タキシードにイブニングドレスが、三階めがけて、押し寄せた。
「来たぞ」
「慌てるな」
「何が起ったって、ぶっ殺される事は、絶対にねえ、それが駄目なら、念仏でも唱えてろ」

それらに金粉を吹き付けているように、二十何個かの窓をとおして浴びせる、夕日一斉射撃で、色彩だけが、物から浮き上り、勝手に踊りまくっているようだ。いにしえの、平安貴族が待ち望んでいた極楽浄土と、タイムズスクエアーの看板から切り取られ、持ち込み、投げ出された、ダイナミックな数々のイメージの断片が、仲良く、このロフトで同居している様は、入って来た者を、たちまちに、めまいを起させるに充分だった。
「これはすばらしいです、次郎長さん」


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