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-CONCEPT- OLD記事

チェッカータクシー

 

 

キャンバス、アクリリック、コラージュ 1975

60 X 65 cm

 

ニューヨークの次郎長

 

第16回   黒髪の踊り娘

この話を聞いて、陽気だったロフトも、一瞬水を打った様に静まり返ってしまった。深夜の清掃トラックが、ガーッガー疾走する音、時々、地鳴りの様な、地下鉄の轟音、空が白みかかって来ている、スズメのさえずりが、この人工大都会に、やけに不釣合だ。

「それだけじゃあないんです、みっともない話ばかりで、お耳障りでしょうが、もう少し、辛抱して、聞いてやっておくんなさいまし、久七のやつ、私を、お恐れながらと、移民局の検査官に訴え出ると、脅かすんです、私の一カ月たらずの観光ビザなど、たちまち、期限を過ぎてしまい、延長手続のことなど、誰も教えてやくれません、よく調べると、久七のやつ、この手で、事情のよく解らない若者から、パスポートを召し上げてしまい、自分のビルの地下室に閉じ込め、扱使ってるんです、ほんと」

「ヘー、俺も、そのイミグレーションだ、ビザだ、弁護士だは、全く苦手だが、久七親分は、このアメリカじゃあ、ちっとはお名前の通った大芸術家だって開いてるぜ、それに、親分の女、あの、すだれの猿とか云った人の話によると、何軒もビルを持ち、お作品が、とぶように売れる、しかも、夏用、冬用と、大層な別荘が、おありだそうで」

「作品が売れる、とんでもございません、とぶように売れるのは、日本から、かっぱらうようにして、運び込んでいる、古道具のことですよ」

「一体、何だいそりやあ」

「ちびた、高下駄、草鞋に、カスリの古もんペ、くわだ、古なべだと、日本のど田舎に行って、古い、忘れられたようなものの中から、目ぼしい物を、農家などから安く買いたたき、盗むように持ち出して、ニューヨークに運び込み、それらに色色手を加え、台座をつけたり、うるしを塗り直したりして、猿にやらせている古道具屋で売りさばいているんです。 ウエストブロードウェイとグランドストリートの角にあるつぶれかかった自動車修理工場を買取り、改造した、金閣寺と云う、黒格子で囲まれた、薄暗い、気味の悪い、わけのわからない店、ご存知ないですか」

「あれか、知ってるぜ、日本レストランかと思ってたが、火消しの半纏を着た若者が、うろうろ働いてるところだろう」

「猿が任され、店の采配を振っていますが、地下が、タコ部屋同様で、古物の修繕などのため、めためたに扱使うんで。 ひどいのは、日本で、その土地でも、荒れて朽ちかけた神社、仏閣から、狐や、狛犬、大鈴、古くから伝わる神器、木魚、仏像から、坊さんの袈裟まで、手当り次第に持ち出してくる始末、村のお地蔵様にまで、手をつけるなんて、あきれるじゃあございませんか、それを、あのすだれの猿が、地下室で、洗い直し、色を塗ったり、台座をつけ、木箱に、もっともらしく入れ、アメリカ人の好みに合せ、仕立ててしまい、見ていても、こっちが恥ずかしくなるような代物ばかりです」

「骨董と云えば、刀剣、茶器、掛け軸なんでしょう」

「そんな高級なものはひとつも、あの金閣寺にはありません、それに、月に、一つや二つ売れても、そんな商売は、とても久七の性分に合いません、ハワイやホンコンのお土産品に、ほんのちょっと、日本伝統の、ワビ、サビ、のセンスをくっつけた安物を、大量生産して、アメリカ中に卸し、大もうけしてるんです、そんな品物でも、キーキー喜んで買うやつらが、うじゃうじゃこの国に居るんですからねえ」

 牡丹灯籠も、次郎長復活祭には、体を張って、お力になりますと約束し、すでに陽の高くなった、ニューヨークを、自分のねぐらに帰って行った。

「親分、あのあま、ただの狐じゃあありませんよ、用心したほうが」

「どうして」

「女の勘、いや、苺の勘ですよ」

 


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