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-CONCEPT- OLD記事

わ!すごい熱帯魚

Biggest Tropical Fish

1999

76  × 80 cm

 

ニューヨークの次郎長

第8回

 

「常吉さんと、昔は、一緒に、ハプニングとやらで銀座を荒しましたっけねえ」

「二十年も前だ、あの頃は楽しかったよ、今はちっとも面白くねえ、ニューヨークは汚ねえだけで、俺の絵を買うやつなんて、一人もいやあしねえ、俺はここを引払ってパリに行くよ、もっとも最初ニューヨークには、腰かけのつもりで来たんだが、金がかせげるもんで、ついつい二十年も住んじまった、ところで約束の金、持って来たか」

「へえ、トラベルチェックも混ぜ、四千ドル、有金はたいてそろえやした」

「こんなのは、俺にとっちゃあ、小便金よ、今や、一億ぐらい貯めたからなあ、四十万ドルだ、ひと昔前なら、七階建のビルが、四軒買えたが、今じゃ、一軒もどうかな」

「絵も売れないで、どうしてそんな大金を」

「女房に稼がせたんだ、二条城と云やあ、数あるジャパニーズレストランの中でも随一、最高級で、大統領や首相が喰いにいらっしゃるゴージャスな店、女房は開店から、この店のウエイトレスで入り込み、毎日キャッシュで凄い額のチップが入ったんだ、お一人様最低百ドルは食って行く店だから、チップは十五パーセント以上、一日百人も客がありゃあ、なあ、俺の女房は古株だから、一番沢山いただく、給料外に、チップだけで、日に二、三百ドルは軽いんだぜ、おかげで、日本にいた頃の俺は、あんたも知っている通りの百円亭主で、焼鳥二本に、焼酎一杯半の毎日だったが、今じゃあ、ぜいたくに慣れてしまい、パリ仕立の背広にイタリア製の靴、絵の材料も全部ヨーロッパ製、ニュートンの絵具にダッチの筆、キャンバスだって、代用品の綿キャンなんて使ったことがない、全部ほんちゃんの麻、リネンキャンよ、だがアメ公は本物の良さを解ってくれねえ、代用品でも量さえ多けりゃあいいんだ、ビーフステーキや、ハンバーガーのでかいこと、でも女の娘のパイオツは別だぜ、プリプリした尻、凄いボインがいる、その間に顔を埋めて寝てみろ、いい気持ちだぜ、まあ味を覚えたら、お前さん狂い犬みたいになるよ、じゃあランドロードに紹介するから鶴吉と一緒についてきな」

 ランドロード。すなわち大家が、自分の持つロフトビルに、住人と一緒にいることはほとんどない。 たいがいは、離れた場所、ブルックリンとか、遠く他の州にいたりするから、家賃はチェックに書き込み、郵送する。 自分のビルがどうなっているかは、年に数回顔を出す程度なので、ドアーがはずれたり、雨もりなどはめいめい、住人が、自分達で直さなければならない。 大家にも、人種、習慣の違いで、ピンからキリまで、あくらつなやつにひっかかった忠助の話を、常吉はした。 

 3百ドルと云う家賃の安さに、飛びついた忠助は、書類にサインをし、さあ俺もこのニューヨークでやるぞ、と喜び勇んで、古倉庫だった、だっだっ広いだけの、汚いスペースを、二・三人のヘルパーを雇い、餓死した、猫やネズミの死体の片付け、天井をはがし、何十年も積り溜まったほこりを払い、床も新品に張り替え、ワックスを何度もかけて、ピカピカにし、靴を脱いであがるまでにし、台所、書斎、ベッドルーム、仕事場と、白壁で区切り電球や水道の配管までやってしまったが、一年たつと大家が紙ペラを持ってやって来やがったんだ。 リースペーパーと云うやつで、貸借契約書だ、、借りる前に両方で期間を決め、サインを交わす。 二年三年五年十年とか。 細かい英語がびっしり印刷された、二、三枚の書類で、弁護士でもなければ、その場でとても全部読めるものではない。 忠助は何と、期間に、一年とサインしてしまってあったのだ。 トラブルが無ければ普通再契約するのだが、家賃を十倍の三千ドルに上げるぞと云われてしまった。 3百ドルで喜んでたのもつかの間、大家は豚小屋同様だった自分のアバラ屋が、忠助の汗の結晶で今では、アディソンアベニュー並みの高級アパートに変っているのではないか。 それならばとばかり忠助を追い出し他人に貸せば、もうけは十倍以上になる。 たまげた忠助は、だがこの異国で弁護士を立てて、あくまで戦う気になれない。 

 


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