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-CONCEPT- OLD記事

わ!怪鳥だ

Strange Bird

1999

68 × 50 cm

アクリル ・ キャンバス

ニューヨークの次郎長

第6回

次郎長さん、次郎長さんと大もて振りに、ひがみ出した久七は、いきなり満座の中で蛮声を張上げた。

「やい、そこの色男、てめえ、日本でいくら大きな顔してたからって、ここニューヨークじゃあ、お前の描いた絵なんざあ、一インチだって通用しやあしねえぞ、俺様から見りやあ、東京だ大阪だなんてえのは、コエダメ臭え田舎よ、芸術の中心はここなんだ、うそだと思うんなら、お前、大通りを、俺は大芸術家でございます、とわめいて歩いて見ろ、お前の顔なんざあ、ここじゃあ、一つも売れちゃあいねえ、狂人あつかいよ。 ここじゃあ、誰も彼もがいちから始めなきゃあならねえんだ、もう一度昔の、三ピンに戻って、絵筆の代りに、ほうき、カナヅチを振り回すんだな、出直しだよ、それで三年たっても売り出せねえ時は、足元の明るいうちに、とっとと帰国するんだな、このニューヨークは落目野郎、金無しこじきには、ちょいと厳しいとこだぜ、親も無え、兄弟も無え、親戚も無え、金貸す友人なんざあ、一人もいねえよ、ついこないだも、セントラルパークのドブ池に、三度笠が、一人浮いてたばっかりよ、お前の子分じゃあねえのかえ、身元のわからねえこんなのが、毎日出るんだ、この街は恐しいところなんだぜ仏さんも、お上の慈悲で三日だけ死体置場に、あずかってくださるが、その間、引取り手がなけりやあ、ブルックリンの高速道路の下にある、百エーカーの広大な共同墓地に放り込まれ人別帳にものらねえから、探しようないぜ。 てめえ、そんな草軽なんか、すぐスニーカーに履き代え、仕事を探すんだ、走り使いから、小間使い、皿洗い、野菜切り、人の喰い残しをほおばって栄養つけ、銭になることなら何でも、エロ映画館のモギリから、オカマじじいのけつの穴そうじだって、やらなきゃあ生きて行けねえところだ」

「親分、あんまり、はなからショックを与えちゃあ、気の毒よ」と猿。

 次郎長は黙って聞いていた。 それより、助かったと思った。 もし、この場に石松が居合せたら、久七は叩き切られていたろう。 勢いに乗っている久七は、

「俺はよう、三十年前に、横浜港から、五十日間も、貨物船の船底に押込められ、やっとサン・フランシスコに着き、今度はバスで、三日三晩、アメリカ大陸を横断、仕事の道具まで抱え、へとへとで、ニューヨークにたどり着いたんだ、こんな豪勢な歓迎会をなどしてくれる気のきいた日本人など、一人も三十年前のニューヨークには住んでいなかった、日本レストランさえ、影も形も見あたらなかったくらいだぞ。 そんなのにお前は、ロックヘラーだか、誰のへだか知らねえが、大そうな金をいただき、飛行機旅行、しかも途中、ハワイで三日も静養しただと、この大馬鹿野郎、お前みたいなのを、前衛貴族って云うんだ」 

怒った鬼吉が、一升ビンをつかんで、立上がろうとするのを、次郎長は、押止めた。

久七は止まらなくなっていた。

「わけのわからねえ、絵だ、彫刻だ、実演だとぬかしやがって、道路に落ちているような汚ねえ材料使って、くだらねえものを沢山こさえ、評論家とぐるになりやがって、あっちこつちに押売りし、あぶく銭こさえたんだってなあ、金が無くなりやあ、ゆすり、たかりで酒を飲み、自分の着物を破ったり、ペンキ塗ったり、親からさずかった自分の頭の毛まで、インデアンみたいにそっちまって暴れ出し、お上をてこずらしたって云うじゃあねえか、やい鬼吉、てめえ、その一升ビンで俺様を殴ろうとしたな、一升ビンてえのは、股ぐらに挟んでよかちん踊りをするためにあるのよ、さあ、鬼吉、素裸になって、一つ踊ってもらおうじゃあねえか」

ゆでだこのようになった高下駄の久七が、

「よかちんを始めろ」

 とどなっている。

「え、ニューヨークまで来て、ズボンを脱ぐんかいな」

 と大政。いきなり鬼吉は、テーブルに跳び上ると、酒、さかなを足でかき分け、あっと云う問に素裸になり、空ビンを股に挟んだまではよかったが、すでにべロべロの鬼吉、意識もうろうで、一つよかちん何じゃいな、の掛け声もうわの空、短小の一物を、一心に、ひっぱり出そうとつかんでいる。 白い粉だらけの痔けつが、もろにダニエルの鼻先にありぐいぐい押出してくるので、両腕を、女性にしがみつかれ、壁に背をくっつけ、

「デビルめ、悪魔さん、助けて」

 ともがいている、鬼吉はそのままの姿勢でイビキをかきはじめてしまった。

 まだ客のいるレストランでのハブニングに、びっくりして逃出す奴から、勘定を取上げてる花子、鶴吉のヤケクソ的献身ぶりに次郎長の頭は下がった。 日本にいちゃあ、この感じは解んねえだろうなあ、子分の大政が、ゲロを吐き出してる女にしがみついて、キスをしている横から、猿が、

「親分、軍歌を歌いましょうよ」

 と云うと、一斉に合唱が始まった。 勝ってくるぞと勇ましく、から始まり、海行かば、徐州徐州と人馬は進む、ラバウル海軍舵空隊、海の男の艦隊勤務月月火水木金金、など延延五十曲に及ぶ日本軍歌が、ジョニ黒のビンの林を縫って流れ出し、日本調のレストランの造りとマッチして、ここは俺の夢見てたニューヨークかいな、と我が目を疑った。

 

 

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