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-CONCEPT- OLD記事

苺ドロボー

Taking a Strawberry

1999

68 × 50 cm

アクリル ・ キャンバス

 

 

ニューヨークの次郎長

第3回

 「ミスター次郎長、食事ですよ」

まままごとよろしく奇麗に並んだ機内食、ピカピカの椅子、テーブル、天井に囲まれ、窓から夕焼けだか朝焼けだか、オレンジ色が目に染みてしかたがない。 前の三人掛けの席に陣取る五人のインド人の家族には、やはり三人分しかディナーが配られなかった。 育ち盛りのあぶれた二人が、くるっと後を向き、大きな目を見張って、めずらしそうに次郎長を眺めていた。

「お食べなせえ、あっしは飲んべえでして」

 

 食事が配られる度に全部子供たちに渡してしまい、ひたすらジャック・ダニエルの小びんからにして積みあげる作業を繰り返すうち、いつのまにか空びんでマンハッタンが机一杯に出来上がってしまった。

 

「わあ-、こいつは凄えや、こうして見ると俺は、やはり何処に居ても廃品彫刻家だあ-」

 ところで出迎えは来てるんだろうなあ、先に行った子分共も、着いたばかりの頃だと、金髪がどうの、ステーキが旨いのと景気のいい手紙も釆てたが、二、三カ月で忽ち音信不通、今じゃあ生きてんのかのたれ死んじまったのか。

 ケネディ空港のカウンターに近づいて来た次郎長の異様な格好を見た移民局の検査官の一人が揉手で嬉しそうに、

「やつは俺にまかせろ、クロサワの侍映画なら全部、七人の侍は十回、座頭市なら二十回見てるんだ。 よし、まずちょんまげだ、この中に手裏剣なんか隠していないだろうな、振分け荷物に風呂敷、大小何でも包める便利な布切れだ、ふんどしには触りたくない、草鞋はまずい、街はガラスの破片で一杯だ、刀、どうせ竹光だろう、こんな長いカミソリを振り廻されたんではたまらねえからな、留学生だな、ビザは一年問やる、それ以上アメリカに潜ったら、逮捕して強制送還だ、OK!」

 

マンハッタン二十三丁自とブロードウェイの角にある、チェルシーハウスには、ハリウッドの夢のカケラもなかった。 アップダウンとダウンタウンの盛り場に挟まれ、もう1つ活気の出ないこのあたりは、道路に紙くずが吹き舞い、4月のイースターパレード祭にちょっと間のある、天気のはっきりしない今頃で、百年以上たつ汚れきったレンガ壁、空けたことのない窓、さびついた非常階段、見回しても、一体、人が住み商売している形跡のないビル群、ばかでかい石を積み上げ、出来立てはさぞかしと思われる、十階以上もある高層ビルが、唖(おし)の虚像ごとく在る。

ここでは風が掃除婦だ。 乾ききったゴミたちは、今日はここ、昨日はあちらのビルの前と風任せに舞い回っているだけ。 台風でも来れば、とことん奇麗に洗い流してくれるだろうに。

チェルシーハウスは全くひどい。 がたぴしのドアー、あかのこびり付いたバスタブ、貧困、学習英語の全く通じないボーイたち、ここには本当のアメリカ人は居ない。 これが次郎長の最初にたどり着いたニューヨークだ。

窓からエンパイアビルが見え、なんとゴリラがしがみついているではないか。

「なんだいありゃあ!」

 草鞋のまま風呂につかっていた次郎長が、鶴吉に尋ねた。

「ビニール製の人形いや猿形ですよ、馬鹿でかい、この街も最近、めずらしいことが多くてねえ、例えばマシンガンでオカマのバーになぐり込んで見たり、ビルが突然崩れ、住人が数十人下敷になったりで」

「ところで鶴吉、お前何年になる」

「二十年以上になりやす、あっしは、絵は描いちゃあいません、もう、ただのニューヨークの便利屋みたいなもんで、親分、解らねえことがあったら、何でもこの鶴吉に聞いてやっておくんなせえ」

 


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