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-CONCEPT- OLD記事

 トカゲとジュースを飲む女

Lady and Lizard

1999

65 × 55 cm

アクリル・キャンバス

 

ニューヨークの次郎長

第2回

   

 次郎長をアメリカに呼んだ、ロックフェラー七世奨学金とは、日本政府の、文化庁派遣の優等生タイプを基準に選んだ美術留学生とは逆に、実験的前衛アート志向を持ち続けている自称芸術家なら、多少酒癖が悪かろうとも、どしどし抜擢、アメリカに呼んでくれるので有名、もっとも新宿あたりのモツ焼屋で乱暴者であっても、ニューヨークのそれとは桁違いでポケットに、ナイフ、ピストルを隠し持ち飲み過ぎ暴れる奴を見るのは毎度のこと、そいつらを取締り、バーから叩き出すのも、酒を注ぐ間の、バーテンのもう一つの役目で、カウンターの下から何時でもショットガンが顔を出す、酒癖が喧嘩を生み、殴られて顔の形の変ったやつ、それでもどてっ腹にショットガンの一発を喰うよりはましかも、てめえの友人の絡(から)みに、ごうを煮し、外に連れ出し、殴り倒してから担いで帰るなど朝飯前のニューヨーク。

「しかし、俺は何で、そんな恐しいニューヨークに絵の修行に行く気になったんだろう、観光会社の宣伝文句か、ハリウッド映画の見過ぎだな、こりゃあ」

次郎長が餓鬼の頃、B29と呼ぶアメちゃんの爆撃機が毎日、東京に爆弾をばら撒(ま)いていた。

 東京山の手のお屋敷町のど真中の長屋育ちの次郎長たちにとって、ふだん絶対に、立ち入ることはおろか、覗くのもやっとの神秘的大金持たちの大邸宅の黒壁が、非常時、空襲、防火のためと容赦なくばたばたと剥ぎ取られ、バラの花壇に囲まれた池や、美しいポーズの西洋彫刻、アーチなどがむき出しにされた中を、手に手に棒切れ持って、この宝島のような庭を、冒険ダン吉よろしく探験しまくった、疎開で無人のステンドグラスに投石し、からの鳥寵、洋酒の空ビンが餓鬼(がき)どもの略奪物になった。

 餓鬼は皆、裏庭や通りに無数に掘り作られた防空壕が大好き、非常食のカンパン、スルメ、自家製の砂糖の入らないお菓子の貯えが在り、ウーウーと敵機来襲のサイレンが鳴りひびけば、深夜だろうが、叩き起され、それっと防空壕に跳び込む、マッチ一本の明りでも、敵機から発見されればたちまち爆弾の雨で皆殺しだぞと驚かされているから、手探り、月明りで非常食なるものをパクつく楽しみがある、翌朝、被爆地の焼跡に出向き、高射砲弾のシャープな破片や、不発弾を見つけ大騒ぎ、この幼児体験が、彼等を後日、廃品クズ屋式彫刻作りに駆らせたわけ。

 幼児体験とは恐しいもので、長じても、ふだんは、天下国家を論じ、口を衝(つ)いて出るのは東西の大文豪、哲学者の名前ばかり、人類の未来を案じたと思うと、酒は朝から飲みほうだい、新宿、銀座までの車賃さえなく、工面し、無数にある芸術の発表場、画廊なるもののオープニングに顔を出し、仲間の元気を確認、何かにかこつけては、乾杯音頭で飲みまくり、寝酒が朝酒につながり、深夜に押掛けた人様の家から帰りの車賃までせびり、銭湯の一番湯につかり、又はスポーツサウナで体調を整えると、又又夕刻から始まる他人画家のオープニングに顔を出す始末、思考はいつも同じサイクルで、どうどう巡りばかり、すなわち、世間をアッと云わせる大傑作を次次と制作発表、世界中の美術館に購入され、受取った大金で 又又大パーティー、一層人気上昇、人人から不世出の天才とうたわれ、老いて、みずからの名で個人美術館を建築、全作品を後世の若者に残し死ぬという、馬鹿馬鹿しい夢物語が、酒を一杯あおる事毎、現実に一歩一歩近づいていく錯覚に陥り、実際は一刻一刻老いて行き、夢物語の虹に目がくらみめまいがしているだけの朦朧(もうろう)状態の体を、その虹のかなたに向かってすっ飛ぶ飛行機に託しているのだった。

 


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