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-CONCEPT- OLD記事

花魁殺し

Murder of Oiran

1965

225×181cm

蛍光塗料・ラッカー・キャンバス

長岡現代美術館

 

ニューヨークの次郎長・外伝4  

 

吾輩は猿である

 

ニューヨークの下町、ソーホー地区に住む貧乏絵描きのロフトに、猿と呼ばれる描がいた。
 ワンブロック離れた洗濯物だらけのボロアパートのどら描たちに手籠(てごめ)にされ、猿はここに来たばかりだと言うのに、うら若い身空ですでにどてっ腹にされちまっていた。
 次郎長親分の三階のアトリエの上は屋上、うっすら寒い風に吹かれ、猿は前足を突っ立て恨めしそうにたちの悪い雄描のたむろするレンガの安アパートをにらんでいたが、その猿のそばを、体のぐあいでも悪いのか、よたよたとえさをあさって近づいて来た、土鳩に素早く襲いかかり、食ってしまった。
 「うっひっひっひいー、親分、さあこれでたっぶり栄養を付けましょうや、何んせここんとこまともなものは食っちゃあいませんからねえ」
 子分の綱吉は、ぶ厚い眼鏡の奥で、嬉しそうに目を細くし、何やら抱えて帰って来た。
 「見てくだせえ。こんなでっかい肉が一ドル以下ですぜ」
 「ほんとか。 りゃりゃりゃ、これあ豚のレバじゃあねえか」
 「まかしておくんなせえ。にんにくたっぶり効かせたニラレバいためを作りやすから。  ヘヘヘヘ」
 それっと子分共は手分けして食事の支度に取りかかる。
 壊れかかった電気釜だが何んとか炊き上がっためしを見た綱吉は、「うヘヘヘヘ   ほっかほかのおまんま、これこそ正真正銘の白はぎ様よ。 味噌汁もそろそろ。 よし腕を振るってレバいためでもと。 あれ、肉が無えぞ!」
 それまでテーブルにどかっとあったやつが姿を消しちまった。
 「やややややや、猿の野郎こんなところに!」
 見るとテーブルの下で猿は肉の包みしっかり抱え、かぶり付きながらものすごい形相で綱吉をにらみ付け、うっうっ とうなった。
「何んだって。 人間様の大切な食物を猿が奪った。 この! ぶっ殺してやる」   次郎長は制作中で手袋をはめていたのを幸いと猿を包みごとわしづかみにすると壁に投げつけた。 かん高い悲鳴を残し猿は天井裏に逃げ込み肉は無事。

 「奴も腹へってたんですねえ。 親分」。
 そんなところへ京都生まれとふれ込みの絵描き志望の可愛い娘が入って来た。
 「お食事中よろしいんどすか。 まあおいしそう何こさえてはるんどすか。 男の絵描きさん皆器用どすから。 あらここにはお描さんがいはる。 三毛のめすでんねん。 可愛いこと。 わてのひざにおいでやす。 うちのも同じ三毛でんねん。 可愛いどっせ。 名前はたま。 お誕生日には花模様のどてら着せ大きなチーズケーキにじゃこをたくさんキャンドル代わりに突き刺し食ペさせまんねん」     ′
 のみだらけの体をあたたかい美人の太ももに横たえ目を細めていたが、この話を聞くと猿は涙を流した。

 「くそいまいましい。 あちきはどうしてこんな不幸な星の下に生まれちまったんだろう」。
 「きゃあ 何んだこれ!」 

 暖房なしの凍りつく貧乏ロフトにもやっと春が来ていた。 日本からの友人を迎え、次郎長一家も故郷の土産話に花が咲き、今や飲み食いたけなわのど真ん中に 何か落ちて来たのだ。 見上げると猿が顔をのぞかしている。
 「天井で生んだ子を、俺たちに見ろと言うつもりなんだ」
 合計三匹が次々に落下して来た。
 「うひゃあー どうする」。

 「天からの授かり物だ。 大切にお育てしろ。 そして高く売りとばすのよ」 と親分。
 猿はよく子を生み、あちこに売られた。 名前も紋次郎、はえ男、丹下佐善・・・・・ 中でも一匹雄なのにマリとつけられたやつがいたが、ヤク好きの飼い主に一服盛られ性格が変り、主人のひざに噛み付いってしまった。 医者は猫は絶対に人間をかまない、この傷は野犬だと譲らなかった。 そのスタジオを訪問する友人はなるべくブーツを履き、マリの牙から足を守ったが、そのうち不潔極まりないストリートの雌描に誘惑され、病気を移されると尿がつまって死んだ。
 次郎長親分のロフトは次々と生まれる猿の子、それらが又、子を生むといったぐわいで猫ばかり増え、売るどころか、ただででも もらい手に困った。

”あの猿のじゃあ”

と知る者はよけい敬遠するし、さっきも酒場の娘が持っていった三匹を糞まみれにして突っ返して行ったばかりだ。 戸締りの悪いロフトではどら猫も時時混じるので、ねずみ取りに貸したやつが、そこでうまいものをたらふく御馳走にあずかり、まるまる太って帰され、ドラ猫と間違えられ、子分共にほうきや棒切れで屋上の隅に追い詰められ、路上の車の屋根に死のジャンプをしたかと思いきや、音だけ大きく本人は平気で又入ってきた。 

 ロフトの階段を遊び場にしていた子猫三匹が全部ビルの谷間に滑って落ちてしまった時、綱吉は魚の釣り竿を持ち出して屋上に出た。

 「うっひっひっひぃ。  いちいち取りに下るのは面倒だ。  ここから釣り上げちまえ」 と持大釣り針に肉を付け釣り糸をたらした。 かかった時あごから針を外す道具だと、ペンチ金槌、針金切り、軍手が竿のそばに同意され、ひまをもて余した子分共は一服やりながら日なたに集まっていた。 竿が大きくしなり、バタバタ引き出した。

「うへ、かかりやったぜ親分」 と素っ飛んで行くと下から

「オーイ、ガキネてえな冗談はやめろ、取りに下りて来い」

 と一楷の大工がどなった。

「ちえ、人間か」。
それでも手袋をはめてやって来た網吉を見て、子猫たちはたちまら

「ギヤー」

と恐怖の悲鳴をあげた。

 

 (実際に子猫を釣り上げようとしたのは、ギュウチャンでした。 詳しくは 前衛の道第2回 をご確認下さい。 編集部)


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