きらめきと破壊:1920年代のドイツ肖像画展
Glitter and Doom: German Portraits from the 1920s
11/14、2006—2/19、2007
Metropolitan Museum of Art
第一次世界大戦後、敗戦国となったドイツでは帝国が崩壊し、1919年にワイマール共和国が誕生する。ところが、この共和国は、ドイツがかわした大戦の賠償規約、いわゆるベルサイユ条約によって
経済的困難を抱え社会的には非常に不安定な状況にあった。しかし、20世紀のドイツ文化はこのワイマール国家のもとで爛熟期をむかえたとも言われている。過度のインフレと失業によって恐慌が進む影で、文化人達は急激に変化していく社会状況に敏感に反応したのかもしれない。本展が焦点をあてるのは、そんな時代に登場したアーティスト達、マックス・ベックマン、オットー・ディクス、ジョージ・グロスらをはじめとする新即物主義(Neue
Sachlichkeit/ New Objectivity)の左派的な支流、ベリスム
(Verism)と呼ばれたグループ。本展は、肖像画を中心に、1920年代ワイマール文化のまっただ中にいた10名のアーティストの作品を紹介する。
![]() Max Beckmann (German, 1884-1950) |
![]() Otto Dix (German, 1891-1969) |
肖像画に登場するのは、様々な職業の人々、例えば医師、弁護士、ジャーナリスト、キャバレーダンサー、生活のため売春婦となった戦争未亡人達, そしてアーティスト自身。描かれているのは、特定の個人の肖像というより、彼らを通して見える不安な時代。
Otto Dix (German, 1891-1969)
The Dancer Anita Berber, 1925
Oil and tempera on plywood
47 1/4 x 25 9/16 in. (120 x 65 cm)
Loan of the Landesbank Baden-Würtemberg in the Kunstmuseum Stuttgart
© 2006 Artists Rights Society (ARS), New York/VG Bild-Kunst, Bonn
100点の作品からなる本展で半数以上を占めるのが、最もグロテスクな描写をしたディクスの作品。肖像画の他、無能な政治指導者を痛烈に批判した寓意画、そしてドローイングを含む。彼の作品の中には輪郭が歪むほどの傷をおった人物、体の一部を失い血だらけの人体が登場する。実はディクスは、大戦の負傷者や死者の写真をモデルにしたと言う。
ディクスに関し、展覧会カタログのあるエッセイは、次の様に終わっていた:「死者や負傷者を描いたのは前衛画家としてだろうか、現実を写す真の鏡としてだろうか、それとも彼らへの哀悼の念からだろうか。」
1933年ヒットラーの台頭により、ワイマール国家は事実上消滅し、ドイツは暗黒の時代を迎えることになり、ディクスらはドイツの醜悪を描いたものとして「頽廃芸術」の烙印のもとに弾圧を受ける。そして続くホロコースト。歴史は、何が「頽廃」であったかを私たちに教えてくれるのではないだろうか。(Yoko
Yamazaki)
![]() Christian Schad (German, 1894-1982) |
![]() Rudolf Schlichter (German, 1890-1955) |